今回もアフリカのマイクロファイナンスの現場の一端をお伝えします。
「貧しい人は貯蓄できない」は誤り
アフリカにはメンバーが出資・所有し、メンバーの貯蓄を元手にメンバーに対して貸付を行う信用組合(西アフリカ)や貯蓄貸付協同組合(東アフリ
カ)の形態で運営するマイクロファイナンス事業者が数多く存在します。ちなみに名称が異なるのは、信用組合や貯蓄貸付協同組合の設立を支援した諸国が用い
た名称が異なった為で活動内容はほぼ同じです。
どちらの場合も「貯蓄」が非常に重要となります。マイクロファイナンス事業者職員は貯蓄の重要性を顧客に説くことから始め、生活設計支援といった
人々の生活に根ざしたサービスを行っています。ガーナの信用組合は新たに事業展開する時には、人々に対して貯蓄の重要性をシンプルな言葉で話すそうです。
例えば「貧しくて貯めるお金が無い」と言う人には、持っている携帯電話の1ヶ月の通話料を聞き、現在通話料に使っている金額の10%を貯蓄にまわしましょ
うといった提案をするそうです。また「美容院に行く回数を減らしましょう」「アイスクリームや清涼飲料水に使うお金を減らしましょう」「洋服代を少し貯蓄
にまわしましょう」といった具体的なアドバイスをするそうです。このようにお金の使い方における「優先順位の付け方」を知らず、優先順位を間違えたために
貧しくなっている人も多いそうです。
貯蓄の習慣を身につける為にガーナの信用組合の業界団体が会員を対象に個人用金庫を1つ60ドル相当で販売(12ヶ月で返済)したところ、
15,000個が完売し現在3,000個を追加発注したそうです。この金庫の鍵は金庫の持ち主と信用組合の職員が1つずつ持ち、一人では開けられない仕組
みとなっています。実際この金庫でお金を貯めていた女性が開けた時にこんなにたまっていたのか、と驚いた事例もあったそうです。メンバーはこうして貯めた
お金を信用組合に持参して貯蓄します。ガーナのある信用組合ではメンバーの中長期貯蓄を奨励するために、3ヶ月毎に貯蓄に利息をつけていました(利息は1
年間で10%)。中長期の貯蓄をメンバーから集めることは、信用組合にとっても貸付に使える中長期資金を得られることにつながり、経営の安定にもつながり
ます。
タンザニアのある貯蓄貸付協同組合でも、メンバーに対して少ない金額でもよいので、貯蓄できる時にはお金を持参して貯蓄することを奨励していまし
た。最低貯蓄額は5,000シリング(345円)と人々が使いやすい金額に設定し、期間が3ヶ月~1年の貯蓄には6%(年利)の利息をつけていました。こ
の貯蓄貸付協同組合では、設立時に「自分たちの貯蓄から貸し付ける」ことを徹底して人々に説明し、外からの資金に過度に依存して貸すのではなく、自分たち
が貯蓄の形で集められた範囲でメンバーに対して貸付を行う体制を整えていました。そしてメンバーから集められた資金は何らかの所得を生むビジネスに対する
貸付に用いられていました。
他方アフリカでは経営不振に陥っている信用組合や貯蓄貸付協同組合の話もよく聞きます。上述したマイクロファイナンス事業者がうまく運営している
背景には簿記、会計、与信など金融知識を持った人材を有給で雇用しているという共通点があります。信用組合や貯蓄貸付協同組合の場合、必ずしも金融知識を
持たないメンバーが無給でメンバーのために貸付や貯蓄サービスに従事するケースも多く見られ、そのような場合、きちんと帳簿がつけられなかったり、内規に
反した貸付を行ってしまったり、ひどい場合にはメンバーの貯蓄の持ち逃げといった問題も生じています。マイクロファイナンスという「金融」事業を行う上
で、金融知識を持つ専門家を有給で雇用することはとても重要です。
貸付金の使われ方
ほとんどのマイクロファイナンス事業者は「所得を生み出す経済活動」に対して貸付を行っています。なんらかの所得創出手段を持たない人に貸付を
行っても返済できず、結果的にマイクロファイナンス事業者が損失を被ることになります。しかし実際の現場では多くの顧客はビジネスのための資金需要と同時
に家計用消費の資金需要も抱えており、現実にはそれらを明確に分けることは難しい場合も多いです。例えば子供の学校の費用を支払う必要があり手元に資金が
なかったので取り急ぎマイクロファイナンス事業者から借りた資金を使って支払い、その後小売店の販売で得られた所得から返済した市場の販売女性もいます。
メンバーが出資・所有するようなマイクロファイナンス事業者の中には、メンバーの需要に応える為に医療費や教育費などを目的とした貸付を行っている機関も
ありますが、貸付総額に占めるそれら貸付の比率は低いことが多いです。
ここで課題となるのが、顧客の返済能力を超えない範囲で顧客の資金需要に応える貸付を行うことです。例えば市場の小売店経営女性の資金需要が、店
の商品の仕入れに5.5、子供の学校費用に2、家賃に2.5と総額10だとします。マイクロファイナンス事業者が「返済原資を生まない活動に貸付・融資を
行ってはいけない」と考え、5.5だけ貸すとします。その時5.5全部を商品の仕入れに用いて、残りの4.5は友人や知人から借りて対応する顧客もいるで
しょう(顧客を定期的に訪問することで商品の仕入状況をチェックできます)。他に手だてが無く、借りたお金をすぐに必要な子供の学校費用2と家賃2.5に
用い、残りの1で仕入れを行う顧客もいるでしょう。その場合当初予定した商品を十分仕入れることができず、小売店経営というビジネスに支障が生じ、結果的
に十分な所得を得られず返済が滞るかもしれません。あるいは返済するために他のマイクロファイナンス事業者からも借り入れて多重債務に陥ることもあるかも
しれません。マイクロファイナンス事業者が10貸していれば数ヶ月後には小売店の販売収入から全額返済できたかもしれないという考え方もあるでしょうし、
逆に販売不振で10貸していたら顧客の返済負担がもっと大きくなっていたという考え方もできるでしょう。
多くのマイクロファイナンス事業者職員は、現場で日々このように「生産目的と消費目的との境が明確でない」顧客を相手に仕事をしています。担保も
無い中、何を根拠に貸付を行うかといえば、グループ貸付の場合はメンバーによる相互のチェック機能が機能しています。タンザニアやガーナで行われているグ
ループ貸付の場合、グループメンバーの中に返済できない者が出ると他のメンバーは代わりに返済しなくてはいけないので、個々のメンバーが借りる金額につい
て予めメンバー相互にチェックし、その後でマイクロファイナンス事業者が審査しているそうです。また熟練したマイクロファイナンス事業者職員が経験に基づ
いて判断する場合もあります。顧客から貸付申請があった時には日頃から接して熟知している顧客の性格(例えば余剰資金はこまめに貯蓄するか等)、顧客の家
族構成(いつどのような時期にまとまった消費目的の資金需要が発生するか等)、ビジネスの状況(資金需要の発生時期・その目的・金額等)などを総合的に判
断します。マイクロファイナンス事業者職員が定期的に顧客を訪問することは、顧客を理解し返済可能な範囲でその資金需要に見合う貸付を行う上でもとても重
要な意味を持つのです。
今回で「マイクロファイナンスの現場から」の連載は終わります。
長い間読んでくださりどうもありがとうございました。
(鳥海直子)