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マイクロファイナンスの現場から お金を借りることで生活の糧を稼ぎ、家畜や貴金属ではなくお金を貯蓄できるようになった!よりよい生活をおくる手助けとなっているマイクロファイナンスの実態について実務者の視点から解説!(隔週更新)

[更新日:2010年5月12日]

第8回 農村部や遠隔地での金融サービス拡充に向けた試み

 途上国の多くの人々は農村部や都市から離れた遠隔地に住んでいます。アフリカでは全人口の7割は農村部に居 住するとも言われています。このような地域に住む人々に対して金融サービスを提供することは、時間も費用も手間もかかり割に合わないと考え、銀行などの金 融機関はあまり積極的に取り組んできませんでした。

 これまでの連載で述べてきたように、農村部や遠隔地で金融サービスを提供する担い手の1つが、限られたメンバーの貯蓄を元手にメンバーに対して貸 付を行うマイクロファイナンス機関です。マイクロファイナンス機関は地元に密着して活動しているため、業務にかかる諸費用を抑えて活動できる強みがありま す。その半面、事業が順調に進み、メンバーの貯蓄だけでは貸付に対応できなくなった場合、業務の幅が制限されることもあります。

 このような状況において数はまだ非常に限られていますが、農村部や遠隔地での金融サービスの拡充に向けた様々な試みが見られます。今回はそのような事例を2つ紹介します。

マイクロファイナンス機関と銀行との連携

 農村部で活動するマイクロファイナンス機関と連携する地元の銀行が現れています。この背景にはかつては国債などで資金運用していた銀行が、公的債 務の削減、インフレ率の低下と低金利化など一連の改革の中で運用先としての魅力を失った政府部門に代わる新たな運用先を開拓していること等があります。

 一般的に銀行は十分整備された施設とシステムを持ち、資金も調達でき、さまざまな金融サービスを多角的に展開することが可能です。その一方、支店 の数は限られ、農村部や低所得層といった顧客については明るくなく、農村の低所得層が新たな顧客層として注目を集めても容易にサービスを提供できません。 他方、マイクロファイナンス機関は農村や遠隔地の低所得層に近い場所で業務を展開しており、金融サービス提供に必要な顧客情報等を十分に把握しています。 しかし、多くのマイクロファイナンス機関は、人材、資金、設備などが十分とは言えず、広範囲に業務を展開することが困難な場合も多いです。このような状況 の下、銀行とマイクロファイナンス機関とが連携することで、双方の弱点を補い、強みを活かして、農村部や遠隔地での金融サービスを展開する試みが行われて います。

 タンザニアのある銀行は、農村部で会員からの貯蓄を奨励し、会員に対して貸付を行っている貯蓄貸付協同組合(SACCOs)と連携することで、農 村部や遠隔地の人々へのサービス提供を拡大・強化しています。この銀行は元々農村部でSACCOs と関わりのあった国営銀行が民営化されたものです。そのためSACCOsの運営に関する造詣も深く、民営化後に外国の支援も用いつつ、農村部での事業展開 を活発化させたのです。

 最初はタンザニアの中でも最も貧しいとされる地域で、連携候補と考えられるさまざまなグループのリーダー達と時間をかけて協議し、相互にどのよう な協力ができるか、相互に受益できる条件についての交渉を重ねました。連携先の選定にあたって銀行は、(1)人々の学ぶ意欲、(2)銀行との連携事業に十 分な時間を割く意志、(3)必要に応じて要請された情報を銀行に提供する意志、(4)詐欺行為が無い、(5)SACCOsの運営方法と重点分野などを重視 しました。また、既存のSACCOsがなくとも、SACCOsを形成する需要のある地域では新たにSACCOsを立ち上げる支援も行いました。

 3年間の試行期間を経て、この銀行はマイクロファイナンス専門子会社を設立し、それまで銀行の顧客でなかった中小企業を含む貧困層を対象に、無担 保あるいは動産担保での融資(長期融資、短期融資、信用枠設定)、預金、振込、送金などのサービスを開始しました。また、SACCOsの活動に必要なバイ クや事務機器等の費用も負担し、融資の使い方、貯蓄の仕方など個々のSACCOsの職員の能力強化も行っています。

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車を用いた移動式金融サービスの提供

 マラウィのあるマイクロファイナンス機関は、必要な機材を載せた車で決められた曜日に決められた場所に出向き、人々に対して貯蓄や貸付サービスを 行っています。現在は首都2カ所の他、地方に2カ所の支店を有しますが、移動式金融サービスにより、支店の開設・運営費用を抑えて、全国28県中20県で 業務を展開し、農村部や遠隔地に住む人々への貸付や貯蓄サービスを提供しています。移動式金融サービスは支店開設より低額とはいえ、自動車購入費、燃料、 ガードマンの雇用料など維持費用も高く、現段階では自前で費用を負担できる段階には達しておらず、外国の援助機関の支援で維持費用をカバーしています。

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 ケニアのあるマイクロファイナンス機関は、車を用いて移動式マイクロファイナンス業務を行う際に、太陽光発電、再チャージ可能なバッテリー等を用 いたラップトップ型パソコンを活用し、取引データをオンラインで加工し、顧客に対して幅広いサービスを提供しています。また、ベトナムのある銀行も外国の 支援を受けて移動式金融サービスを提供しています。この銀行の場合は金利と手数料で運営費をカバーしているそうです。家まで行員が集金にくるため、顧客に とっての取引費用も低くなっています。

農村部・遠隔地での金融サービス拡充に向けた試みの課題

 このように農村部や遠隔地に住む人々に対する金融サービス拡充のための様々な試みがなされていますが、現段階ではこのような試みの多くが資金面、 技術面で外国の支援に依存し、自前で必要な費用を負担できる段階に達している機関は限られています。また車を用いた移動式金融サービスの場合、農村部にお ける治安状況。法の整備と運用状況、道路の整備状況、貯蓄を集めることに関する規制等の要因も考えなくては行けないなど、新たな試みを行う際には事業環境 にも十分留意する必要があります。

 このように課題はいくつもありますが、地元のマイクロファイナンス機関や金融機関による様々な試みが根付けば、農村部や遠隔地に住むより多くの人々が金融サービスを使えるようになる可能性があり、今後もその動向を注視していく必要があると思います。

 

(鳥海直子)

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ライタープロフィール
三井久明(みつい ひさあき)
専門分野はマイクロファイナンス、公共財政、民間部門振興、援助政策。 早稲田大学大学院経済学研究科修士課程およびUniversity of Sussex (IDS) Mphil課程修了。1990年に財団法人国際開発センターに入職し、現在は主任研究員。明治学院大学および早稲田大学にて非常勤講師を勤める。主に東南 アジア、南アジア地域において貧困削減、産業振興、国営部門改革にかかわる各種の調査研究に従事。
鳥海直子(とりうみ なおこ)
専門分野はマイクロファイナンス、農村金融、開発経済、農村開発。 世界銀行認定マイクロファイナンス・トレーナー。Institute of Social Studies 開発経済学修士課程修了。民間企業勤務、アジア経済研究所開発スクール、留学を経て、1994年に財団法人国際開発センターに入職し、現在は主任研究員。 市場経済移行諸国における農業開発、アフリカ農村地域の生計維持についての調査研究等、農業・農村開発分野を中心とした複数の調査研究に従事。