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マイクロファイナンスの現場から お金を借りることで生活の糧を稼ぎ、家畜や貴金属ではなくお金を貯蓄できるようになった!よりよい生活をおくる手助けとなっているマイクロファイナンスの実態について実務者の視点から解説!(隔週更新)

[更新日:2010年2月 8日]

第1回 途上国における高利貸業の実態

はじめまして。今日から 隔週でこのコラムに執筆することになりました財団法人国際開発センターの三井久明と鳥海直子です。私たちは政府開発援助(ODA)の調査研究を通じて、主 にアジアやアフリカのマイクロファイナンスについて調べて参りました。このコラムではその経験に基づいて、マイクロファイナンスに関するさまざまな話を書 いていきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

 

今日、多くの途上国でマイクロファイナンス事業が活発に展開されている。それにより多くの人々がよりよい生活を送ることができるようになった。しか し、貧困層の中でマイクロファイナンス事業者や、銀行といった正規(フォーマル)の金融機関を利用している人々はまだまだ限られており、多くの貧困層は依 然として貸金業者から高金利で資金を借りている。マイクロファイナンスを使えない途上国の人々に貸付を行っている貸金業者について述べる。 

なぜ貸金業者を利用するのか?

現在、途上国でも、法令によって過度の高金利の貸付は禁じられている国が増えてきているが、市場金利を遥かに超える金利で貧困層相手に貸金業を営ん でいる業者は消えてなくなることはない。貧困層はなぜ高金利の貸金業者を利用するのか。貸金業者はなぜ存在し続けるのか。その理由は、第一に貸金業者は利 便性に優れているからである。融資の手続きは簡単であり、申請書類を作成することも無く、すぐに現金を得られる。特に農村部の貧困層にとって、銀行の支店 を訪問するため都市に出向くのは旅費が高くつき時間もかかる。一方、貸金業者であれば身近なところにおり、必要な時にすぐに頼ることができる。第二の理由 は、銀行が利用しにくいからである。銀行口座を開設したり、貸付を受けたりするには様々な公的書類を提出せざるを得ないが、役所からこれを入手するには手 間がかかる。最低預金金額の設定や口座維持手数料の徴収なども、貧困層にとっては銀行を利用しにくい要因である。銀行融資の金額や返済期間、回数といった 条件も貧困層のニーズと合っていない。途上国では銀行員はエリートであり、十分な教育を受けていない貧困層など窓口でまともに相手にしてもらえないという 状況もある。 

貸金業者とはどのような人々か?

貧困層への貸付は返済不履行になる可能性が高く、そもそもリスクの大きいビジネスである。なぜ途上国の貸金業者は貧困層に積極的に貸付を行い、ビジ ネスを続けていられるのか。その理由は、第一に貸付業者と借入人との間に密接な関係があるためである。途上国の貸金業者は不特定多数の貧困層に対して貸付 を行っているわけではない。一般に、一人の貸金業者は50人から100人ほどの顧客を抱えており、彼らの経済状況や生活環境について詳細な情報を把握して いる。彼らは誰にどういった収入源があるのか、家族構成はどうなっているのか、といった情報を把握しているため、リスクの低い相手を選んで貸付を行うこと ができる。貸金業者はこうした情報を把握できる顧客の数を増やすことには限界があり、また貧困層にとっても自らの生活状況を熟知しているような貸金業者を 何人も確保することはできない。多くの場合貸金業者と貧困層との間には一対一の関係が作られている。目の前にいる貸金業者の金利が高いからといって、他に 貸してくれる相手はいないことになる。第二に、貸金業者は借入人と何らかの商取引で繋がっていることが多く、借入人の入金をコントロールできるからであ る。農家に貸し付ける相手が農産物の仲買人であれば(あるいは仲買人が貸金業者を兼ねているのであれば)、農作物の買取という形で返済スケジュールを管理 することができる。同様に、雇用者が被雇用者に貸付を行うのであれば、給与の天引きという形で返済をコントロールすることができる。 

どれほど高金利なのか?

貸金業者のような非正規(インフォーマル)の金融の場合、1年以上の中長期間にわたり貸付を行うことはまれであり、殆どが数週間から1年間といった 短期貸付、場合によっては1日間から数週間といった超短期間の貸付である。貸付金利は市場金利に比べて高く設定されている。貸付のリスクが高い、小口の貸 付には手間がかかるといった理由に加え、借入人側に金利についての交渉力が無いこと、十分な教育を受けておらず計算が不得意なことなども、高金利の理由と なっている。特に超短期間の貸付の場合、金利は極めて高い。例えばフィリピンの露天商(ストリートベンダー)の場合、毎朝、特定の卸売業者(兼 貸金業者)から50ペソ分の商品を受け取り、夕方には60ペソを現金で返済することになっている。この場合、金利は一日で20%、月利に換算すると2万 パーセント以上にある。さらに、月曜日の朝に商品(干し魚など)を1,000ペソ分受け取り、毎日200ペソの現金を土曜日まで6日間かけて返済するケー スもある。これは“10 come back 12”ルールと呼ばれる。こうした商習慣はアジアや中南米では良く見られる。このような高い金利を負担していては利益がでるわけがなく、貸金業者への依存 構造から抜け出すことは無理である。最も悪質なのは、最初から貸付金の回収ではなく、借入人の債務不履行を狙って高利で貸し付けるケースである。貸付の担 保として土地を設定し、はじめからその土地を奪うことを意図して、返済不可能な高利で貸付を行う。土地無し農民の場合は、借金が返済されるまで長期間の労 働力の提供を求められる。返済が完了するまでは、その土地(農園)から離れることは許されない。いわゆる農奴である。今日でも、パキスタン中部の大農園で は、父母や祖父母の代の借金によって当該農園に縛り付けられている農民が多数存在しているといわれる。

次回は借手のニーズに合う金融サービスを提供しているマイクロファイナンスとして、セネガルの事例を紹介する予定です。

 

(三井久明)

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ライタープロフィール
三井久明(みつい ひさあき)
専門分野はマイクロファイナンス、公共財政、民間部門振興、援助政策。 早稲田大学大学院経済学研究科修士課程およびUniversity of Sussex (IDS) Mphil課程修了。1990年に財団法人国際開発センターに入職し、現在は主任研究員。明治学院大学および早稲田大学にて非常勤講師を勤める。主に東南 アジア、南アジア地域において貧困削減、産業振興、国営部門改革にかかわる各種の調査研究に従事。
鳥海直子(とりうみ なおこ)
専門分野はマイクロファイナンス、農村金融、開発経済、農村開発。 世界銀行認定マイクロファイナンス・トレーナー。Institute of Social Studies 開発経済学修士課程修了。民間企業勤務、アジア経済研究所開発スクール、留学を経て、1994年に財団法人国際開発センターに入職し、現在は主任研究員。 市場経済移行諸国における農業開発、アフリカ農村地域の生計維持についての調査研究等、農業・農村開発分野を中心とした複数の調査研究に従事。