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マイクロファイナンスの現場から お金を借りることで生活の糧を稼ぎ、家畜や貴金属ではなくお金を貯蓄できるようになった!よりよい生活をおくる手助けとなっているマイクロファイナンスの実態について実務者の視点から解説!(隔週更新)

[更新日:2010年3月31日]

第5回 低金利貸付の弊害

マイクロファイナンスのような貧困層に対する貸付は低金利であるべきだという主張がある。もともとマイクロ ファイナンスは営利が主たる目的ではなく、低所得国における貧困削減を狙った事業である。何らかの「援助」的な要素が入ってしかるべきであるという考えで ある。確かに、途上国政府に対する日本のODAの円借款事業の場合、貸付金利は民間商業銀行の金利よりも低く設定されているし、また日本育英会の奨学制度 も無利子貸付か市中金利よりは低めの貸付となっている。だが、途上国におけるマイクロファイナンス事業において、貸付金利を市中金利よりは低めに設定する ことは適切ではない。銀行から貸付を受けられない貧困層にとって、マイクロファイナンス事業者から貸付を受けられなければ、非正規の貸金業者から高利で借 り入れるしか選択肢がない。一時的に低金利で貸付を受けるよりも、安定的に市場金利で借り入れできる場が確保される方がよほど望ましい。これまでも様々な 団体が補助された優遇金利でマイクロファイナンスを行ってきたが、その多くは貧困削減の目的を十分に達成できていない。低金利貸付は下記のような問題を孕 んでいるからである。

第一に、途上国では優遇された低金利貸付のような有利な情報は貧困層のもとには届きにくい。そもそも通信インフラが発達していないところでは、公的 機関が発する情報そのものが貧困層には十分に到達しない。情報を掌握している者は、当該地域の有力者であり、低金利貸付の類の情報は、貧困層のところに届 く前に有力者に占有されてしまう。「市場金利だと資金が必要な者が借りる、低金利だと政治力がある者が借りる(ガーナのマイクロファイナンス事業者団体職 員談)」というのが実情である。第二に、低金利貸付は政治的な影響を受ける。低金利の優遇部分を政府が負担している場合、借入人の選定プロセスにどうして も政治が関与してくる。政権党の党員が優先されたり、特定の地域の住民に優先的に貸付枠が与えられるといった事態が生じる。そのため、必ずしも資金が必要 な貧困層に貸付が行われるとは限らない。第三に、低金利だと貸付事業の収益が少なく、事業の持続性が確保されない。そもそも貧困層に対する小口の貸付は手 間とコストがかかる事業である。50ドルを100人に貸すよりも、5000ドルを一人に貸すほうが手間もコストも少なくて済むのは当然である。したがっ て、マイクロファイナンス事業の貸付金利は、商業銀行よりも高めに設定しなければ事業として成立しない。政府やドナーからの補助金に依存して低金利で貸し 出すマイクロファイナンス事業は少なくないが、これでは事業の規模拡大が見込めないばかりか、将来の補助金の支給停止とともに事業も成り立たなくなる。前 述のように、貸金業者からの高利借り入れ以外に選択肢の無い貧困層にとって、一時的に低金利で貸付をうけるよりも、市場金利であっても安定的に安全に借り 入れられる事業者が身近に存在することのほうがよほど重要である。第四に低金利貸付は預金業務の障害となる。本シリーズ第3回「貧困層と貯蓄」でも述べた ように、途上国の貧困層にとって、生活に余裕のあるときに余剰金を安全に貯蓄することは極めて重要であり、貯蓄サービスへのニーズは大きい。貸付金利が低 いと、預金金利もこれに応じて低く設定せざるを得ない。貧困層からの預金を増やすことに繋がらない。

(三井久明)

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ライタープロフィール
三井久明(みつい ひさあき)
専門分野はマイクロファイナンス、公共財政、民間部門振興、援助政策。 早稲田大学大学院経済学研究科修士課程およびUniversity of Sussex (IDS) Mphil課程修了。1990年に財団法人国際開発センターに入職し、現在は主任研究員。明治学院大学および早稲田大学にて非常勤講師を勤める。主に東南 アジア、南アジア地域において貧困削減、産業振興、国営部門改革にかかわる各種の調査研究に従事。
鳥海直子(とりうみ なおこ)
専門分野はマイクロファイナンス、農村金融、開発経済、農村開発。 世界銀行認定マイクロファイナンス・トレーナー。Institute of Social Studies 開発経済学修士課程修了。民間企業勤務、アジア経済研究所開発スクール、留学を経て、1994年に財団法人国際開発センターに入職し、現在は主任研究員。 市場経済移行諸国における農業開発、アフリカ農村地域の生計維持についての調査研究等、農業・農村開発分野を中心とした複数の調査研究に従事。
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