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マイクロファイナンスの現場から お金を借りることで生活の糧を稼ぎ、家畜や貴金属ではなくお金を貯蓄できるようになった!よりよい生活をおくる手助けとなっているマイクロファイナンスの実態について実務者の視点から解説!(隔週更新)

[更新日:2010年3月 3日]

第3回 貧困層と貯蓄

貸付から総合的な金融サービスの提供へ

マイクロファイナンス事業はもともと貧困層への貸付事業(マイクロクレジット)としてスタートした。貸付事業だけでなく、借入人に貯蓄を奨励した り、場合によっては少額の貯蓄を貸付に先立ち義務付けたりする事業者もあるが、あくまで事業の中心は貸付であるところが多い。だが、近年になって、貯蓄や 国内外への送金といった貸付以外の金融サービスの提供に積極的に取り組む事業者が増えてきている。事業の呼び名も、貸付中心の「マイクロクレジット」か ら、様々な金融サービスの提供も含む「マイクロファイナンス」へと変わってきた。貧困層の生活を金融面で支えるには、特に貯蓄サービスの提供が重要である ことが認識されてきている。

貯蓄の重要性

貧困層といっても、いつもいつも生活難に苦しんでいるわけではない。農産物が収穫された後、生産物の販売代金を得た後、商品がよく売れた際など、い くらかの余剰資金が手元に残る。これを安全に貯蓄しておくことができれば、収入が落ち込んだときにも貯蓄を取り崩すことで安定的な生活を送ることができ る。だが、余剰資金を安全に蓄えておくことができないと、収入が落ち込んだ際、あるいは不意の出費が必要な際に、どこからか資金を借りなければならない。 親戚、友人などから借りることができなければ、高利の貸金業者に頼らざるを得ず、借金の返済に日々おわれる生活においこまれてゆく。

貧困世帯は、貯蓄がいかに重要かは自らがよくわかっているため、たとえ金融機関を利用できずとも、様々な形態で貯蓄をしている。貯蓄の形態として、 「現金」はもっとも身近なものであり利便性に優れている。カーペットの下や家具の後ろなど様々な場所に隠しておけるが、貧困層の貧素な家屋の中で安全な隠 し場所などあるはずもなく、盗難にあう可能性が高い。たとえ盗難にあわなくても、同居している家族、近所の親戚などから無心を頼まれれば断ることは難し い。アルコールやギャンブルが好きな夫などがいれば、余剰の現金はあっというまになくなってしまうだろう。現金を「貴金属」に換えて貯蓄することも多い が、現金と同じ利便性と危険性を有している。一方、農家の場合には「穀物」の形で貯蓄することも多い。換金性に優れているが、品質が劣化しないように保存 するには手間がかかるし場所もとる。穀物とならんで「家畜」も貯蓄の形態の一つとなる。家畜は英語でLive Stockであり、文字通り「生きた」「蓄え」である。農村部であれば換金は容易であるし、牛や馬であれば耕作など使役にも使える。だが専業農家でない限 り飼育は大きな負担であるし、疾病などが蔓延すれば「蓄え」をいっきに失ってしまう危険性がある。穀物のように「部分的」に換金することもできない。ま た、農家では「農地」の形態で貯蓄することもできる。だが、旱魃や水害などに見舞われ生活に苦しく資金が必要な時には、農地の価値も落ちてしまい、有利な 条件で換金することができない。結局、最も利便性に優れ安全な貯蓄の形態は、銀行など金融機関への預金であるが、途上国、特に人口密度が低いアフリカ大陸 では、銀行の支店数は少なく多くの貧困世帯にとって銀行は身近な存在ではない。読み書きが不自由であれば、預金口座開設のための書類をそろえることも苦労 するし、最低必要預金額などが設定されていれば口座を作ることさえ難しくなる。なによりも銀行自体が貧困層を顧客としてみなしていない。

マイクロファイナンス事業者による貯蓄サービス提供の限界

マイクロファイナンス事業者が貸付と並んで、貧困世帯の貯蓄を受け入れるサービスを提供していれば良いのだが、事業者の多くは預金確保に積極的では ない。その理由の一つは事業者の業態にある。どこの国でも、預金者保護の観点から、不特定多数の個人から預金を受け取ることのできる団体は銀行に限定され ている。マイクロファイナンス事業者の多くは協同組合、信用組合、あるいはNGO等として登録されており、中央銀行や財務省など金融当局の監督下にない場 合も多く、組合員以外の不特定多数の個人から貯蓄を引き受けることができない。マイクロファイナンス事業者が不特定多数の人々から貯蓄を集めるためには、 金融当局の監督下にある金融機関となる必要がある。

 

(三井久明)

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ライタープロフィール
三井久明(みつい ひさあき)
専門分野はマイクロファイナンス、公共財政、民間部門振興、援助政策。 早稲田大学大学院経済学研究科修士課程およびUniversity of Sussex (IDS) Mphil課程修了。1990年に財団法人国際開発センターに入職し、現在は主任研究員。明治学院大学および早稲田大学にて非常勤講師を勤める。主に東南 アジア、南アジア地域において貧困削減、産業振興、国営部門改革にかかわる各種の調査研究に従事。
鳥海直子(とりうみ なおこ)
専門分野はマイクロファイナンス、農村金融、開発経済、農村開発。 世界銀行認定マイクロファイナンス・トレーナー。Institute of Social Studies 開発経済学修士課程修了。民間企業勤務、アジア経済研究所開発スクール、留学を経て、1994年に財団法人国際開発センターに入職し、現在は主任研究員。 市場経済移行諸国における農業開発、アフリカ農村地域の生計維持についての調査研究等、農業・農村開発分野を中心とした複数の調査研究に従事。