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将来お金に困らない大人になるために! 海外在住者に聞く、世界のマネー教育事情 (前編)


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    日本では2022年4月から高校での金融教育の授業がスタートしました。しかしながら、海外では子どもの年齢がもっと低いうちから金融教育を行なっているところもあることをご存じでしょうか。今回は、海外を拠点に活動するAll About子育てガイドの長岡真意子さんに、アメリカでの金融教育の具体的な内容や背景をお聞きするとともに、ファイナンシャル・プランナーの二宮清子さんにもお話を聞き、私たちが家庭でできる取組みについて探ります。

    ●お聞きした方

    All About「子育て」ガイド 長岡 真意子さん

    アラスカ大学日本語講師&日本語文化センター子育て支援担当。5人の子育てを通し、モンテソーリ教育、シュタイナー教育、ギフテッド教育に携わる。
    大学講師から幼児教室主宰まで、幅広い年齢と文化背景をもつ乳幼児から青年までの育ちを20年間指導。国内外1,000以上の文献に基づく子育てコラムの執筆多数。主な著書は「敏感っ子を育てるママの不安がなくなる本」(秀和システム)

    All About「家計簿・家計管理」ガイド 二宮 清子さん

    日本FP協会会員 ファイナンシャル・プランナー(AFP)。
    日本大学短期大学部卒業。家庭科の中学・高校教師として7年間勤務、その後自動車販売会社に入社し勤務。2011年1月独立系FP事務所「幸せマネープラン」開業。メディア掲載実績多数。

    なぜいま金融教育が必要なの?

    日本の金融リテラシーはOECD30カ国中22位(※1)

    2022年4月から高校の家庭科で金融教育がスタートしました。それにしても、なぜいま金融教育が必要なのでしょうか。長岡さんは、「日本人の金融リテラシーは高いとはいえない水準にあるため」と説明します。

    「2014年に実施され、2015年に発表された、世界最大規模の金融リテラシーの水準に関する調査『S&Pグローバル・ファイナンシャル・リテラシー・サーベイ〈Financial Literacy Around the World〉』(※2)によると、日本では金融リテラシーのある成人の割合が43%と報告されています。世界ランクは38位で他の先進国に比べて高いとはいえない水準です」(長岡さん)

    金融広報中央委員会の「金融リテラシー調査2019」(※3)でも、日本の金融リテラシーはOECD加盟30カ国中22位となっています。

    ちなみに、「金融リテラシー」とは「お金にかかわる、金融や経済に関する知識や判断力のこと」。政府広報オンラインでは「私たちがしっかりとした生活基盤をもって生活していくためには、お金を上手に管理したり、注意深く使ったりすることが重要です。そのためには、お金について十分な知識をもち、お金との付き合い方について適切に判断する力が必要です」と説明しています。

    (※1、※3)出典:金融広報中央委員会「金融リテラシー調査」(2019年)
    (※2)出典:S&P Global FinLit Survey | Global Financial Literacy Excellence Center(GFLEC)

    学校での金融教育が不可欠な時代に

    では、金融リテラシーを向上させ、将来お金で困らない大人になるためには、どうすればいいのでしょうか。長岡さんは「学校で金融教育を進めることが重要」と話します。

    「アメリカでは公教育で金融教育を行なうことが望ましいとされ、近年その傾向がさらに強まっています。

    大きな理由の一つは、社会保障における自己責任の幅が広がっていること。アメリカでは、メディケイドと呼ばれる低所得者や高齢者のための公的医療保障制度はあるものの、基本的には各自が民間の医療保険に加入します。

    また、雇用者や自営業者の大半を対象とした社会保険年金(老齢・遺族・傷害保険)はありますが、大手企業などでは社会保険年金に上乗せする企業年金が用意され、なかでも急速に普及しているDC制度(※4)では、自分が選択した運用方法の運用実績によって将来受取れる金額が変動します。

    そのため、国の政策や税制、資産運用の方法を知らないと、資産形成がうまくいかないどころか、不利益を被る可能性もあります。金融教育にアクセスできるかどうかが将来の経済格差につながるため、公教育で金融教育に力を入れることが不可欠になっているのです」(長岡さん)

    他の理由としては、パンデミック(新型コロナウイルス感染拡大)で仕事を失い、収入がなくなったことや、キャッシュレス化が進んだ結果、現金をやり取りしていたときに比べて、お金を使いすぎる人が増えたことも原因として挙げられるのではと語ります。

    (※4)DC制度:企業が福利厚生制度の一環として提供する、企業型DC(Defined Contribution)制度。アメリカは自動加入の方式が取られている(希望者は脱退することも可能)。

    アメリカの金融教育はどんな内容?

    全米の9割以上の州が、高校卒業までにパーソナルファイナンスを授業で学ぶ

    アメリカでは、どのような金融教育が行なわれているのでしょうか。

    長岡さんは、「アメリカでは学校教育の権限が各州にあり、金融教育のカリキュラムも州によって異なる」と話します。とはいえ、2022年の時点では9割以上の州で高校卒業までに「パーソナルファイナンス」を中心とした金融教育が行なわれています。

    パーソナルファイナンスとは、自分の生涯のお金のことは自分で管理・運用しようというもので、日本と異なり、健康保険の加入義務や終身雇用制度のないアメリカならではの考え方ともいえます。

    「2022年の報告(※5)では、47州の内、23州にて高校卒業までにパーソナルファイナンスが必修化されています」(同)

    (※5):経済教育団体(CEE The Council for Economic Education)による2022年の調査

    パーソナルファイナンスの具体的な内容は?

    では、具体的にどのような内容を学んでいるのでしょうか。

    「例えば、アメリカの連邦政府が管轄する教育システムの一つに、国防総省の教育プログラム(DoDEA:Department of Defense Education Activity)が提供するバーチャルハイスクールがあります。このDoDEAのパーソナルファイナンスコースでは、銀行口座の開設方法や収入と支出の管理、貯蓄の方法、クレジットの原理、ローンの手続き方法、保険に加入する理由や選び方、確定申告(所得税申告)の書類作成方法と税金還付の受け方、投資の方法、老後資金の準備など、極めて実用的な内容を学びます」

    パーソナルファイナンスでは、資金管理が家計の健全化に不可欠であることや、貯蓄や投資が経済的な安定を築くことなどをベースに、「明日からの生活にすぐ役立つ実用的な知識」を学ぶとのこと。

    これには、アメリカでは大学進学にあたって、学生自身が教育ローンを組み、授業料を支払うことなどが影響しているといいます。

    「そのため、高校を卒業してすぐに自立して生きていくための知識を学びます。DoDEAの授業はオンラインで行なわれ、教材もデジタル教科書なので、アメリカの高校生の誰もが受講することが可能です」

    ちなみに、学校での金融教育で株式や債券、投資信託などへの投資はもちろん、仮想通貨などの新たな投資商品について学ぶケースもあるそうです。

    「金融リテラシーが低いと、例えば高金利でお金を借りてしまうかもしれません。金融に関する政策や制度、金融サービス、商品に関する知識がなければ、それを活用した効率的な資産形成ができず、資産を増やすこともできないでしょう。ですが、パーソナルファイナンスを学び、金融リテラシーを高められれば、より豊かになれる可能性も高まります」

    金融教育が充実することは、よりよい将来の実現にもつながりそうです。

    日本の金融教育の現状は?

    一方、日本での金融教育はどうなっているのでしょうか。フィナンシャルプランナーの二宮清子さんは、「日本の金融教育では、紹介されたアメリカのケースに比べると、概念的なことを教えるにとどまるケースが一般的」だと現状を説明します。

    「かつての日本では、清貧を良しとし、人前でお金の話をすることを“はしたない”と考える風潮がありました。そのため、お金を稼ぐことや投資をすることにネガティブなイメージをもつ人が少なくありません。また、親世代は学校で金融教育を受けていないこともあり、お金の管理や金銭感覚が親の考え方に左右されるケースが多々見受けられます」(二宮さん)

    その結果として、親も子も家計管理ができないままという負の連鎖が続くなどの問題も起きているといいます。

    金融教育が充実すれば、より豊かな暮らしを実現できる

    これを解消するには、「学校での金融教育も重要」と二宮さん。そのためには、アメリカのパーソナルファイナンスのように、資金管理が家計の健全化に不可欠なことや、貯蓄や投資が経済的な安定を築くことなど基本的な考え方はもちろん、家計管理や貯蓄、投資など、より具体的かつ実践的な内容を学ぶ必要がありそうです。

    「家計相談をしていると、しばしば『そんな制度があるとは知らなかった』、『もっと早く知りたかった』という言葉を耳にします。お金に関する政策や制度、金融に関する知識のあるなしが、子どもの進路や暮らしを左右してしまうケースもあるようです」(二宮さん)

    金融教育が充実することは、子どもたちが自分の夢を実現し、より豊かな暮らしを手に入れることにもつながります。後編では、アメリカでの金融教育を例に、家庭でできる取組みと、お金について身につけておくべき考え方について紹介します。

    【次回はこちら】
    >>将来お金に困らない大人になるために! 海外在住者に聞く、世界のマネー教育事情 (後編)

    取材・執筆 大山 弘子

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