「有価証券のデジタル化」、セキュリティトークンと新たな資金調達手段STOとは?
近年、デジタル化やDX(デジタルトランスフォーメーション)というキーワードは、政府の経済政策や企業の経営戦略の場などで頻繁に取り上げられています。そこで今回は、有価証券のデジタル化、その中でも注目を集めるセキュリティトークンに焦点をあて、トークンとは何かという基本的な内容から、STOが注目される背景や今後の展望についてご紹介します。
目次
セキュリティトークンとは?
トークンとは
・トークンは、もともとは「しるし」などの意味
トークンを直訳すると、「しるし」「象徴」「証拠」などの意味を持ちます。IT分野でトークンとは証明や印になるデータのことを指し、さらに金融業界ではインターネットバンキングで用いられるワンタイムパスワード生成機などもトークンと呼ばれています。
このようにトークンは、元々が意味する「しるし」の機能に最新のデジタル技術が組合わさり、引換券やデバイス・電子貨幣などにまでに概念が広がっています。近年では、お金やサービスとの交換に用いられる代用貨幣として利用されるケースが急増しています。
・暗号資産やコインの意味も持つ
さらに2010年頃から市場に出回るようになってきたビットコインに代表される暗号資産においては、ブロックチェーン技術を用いてある発行体が取引相手に交付する証券などのデータも、トークン(もしくはコイン)と呼ばれています。トークンの現在や過去の所有者はブロックチェーンのシステム上で確認・証明でき、トークンはデジタル上の代用貨幣として、お金やサービスと交換できます。
セキュリティトークンとは
・セキュリティとは、有価証券を意味する
では本題のセキュリティトークンとは、どのようなものなのでしょうか。この「セキュリティ」は、有価証券のことを指しています。有価証券とは、株式、債券、為替手形、小切手など「法律上における一定の財産権利や義務に関する記載がされた証書」のこと。金融商品取引法の第二条一項では、国債、社債、株券などが有価証券として定められています。
・セキュリティトークンとは、「デジタル化された有価証券」のこと
つまりセキュリティトークンとは、セキュリティ=有価証券、トークン=ブロックチェーン技術等を用いたデータ証書、が合わさった「ブロックチェーン等の技術を用いてデジタル化された有価証券」のことをいいます。
ちなみに一般社団法人日本セキュリティトークン協会の定義では、セキュリティトークンとは「ブロックチェーンネットワーク上で発行されるデジタルトークンのうち、有価証券その他の資産や価値の裏付けを有するもの」と定められています。
改正金商法における定義
また、セキュリティトークンは金融商品取引法(金商法)の対象です。2020年5月施行の改正金商法で、セキュリティトークンの金商法上の位置付けが明確化され、金融機関での取扱いが可能になりました。
セキュリティトークンの活用方法
STOとは
・STOとは、セキュリティトークンを用いた資金調達のこと
STOとは、Security Token Offering=セキュリティトークン公開の略称で「ブロックチェーン等の電子的技術を使用して、デジタル化し発行される有価証券による資金調達」を意味します。
・STOにおける資金調達のしくみや流れ
従来、株式や債券等の証券は、紙媒体の証券で取引されていました。その後制度改正により、中央集権型の管理機関「証券保管振替機構」(ほふり)にて、一括管理するしくみが導入されたのです。ほふりによる管理は、紙媒体の券面を発行せず、振替口座簿と呼ばれるデータへの記録を用いて権利者を確定させています。
さらにセキュリティトークンの場合、ほふりで管理されずブロックチェーン等を活用した独自のインフラ基盤によって発行・管理されています。ブロックチェーンの活用により、ほふりでは困難であった最終投資家の把握が随時可能となりました。そのため、発行体の中には最終投資家を把握し、投資家とのコミュニケーションの促進や、長期投資家への優遇といった面を重視する動きも出てきました。
STOのメリット
・安全性が高い
STOはブロックチェーンを利用しているため、データの改ざんが非常に難しくなっています。
ブロックチェーンとは一般的に、「取引履歴(ブロック)を暗号技術によって1本の鎖のようにつなげ、正確な履歴を維持する技術」のことです。
一つのブロックは、合意された取引記録の集合体と各ブロックを接続させるための情報などで構成されています。故にこのしくみでは、取引を一つ改ざんするにはそれ以前の取引を全て改ざんする必要があるので、データの破壊・改ざんが極めて難しくなっています。
また、セキュリティトークンは前述のように金商法において有価証券に定められており、STOは法令に従った資金調達であるため、安全性も高いと言われています。
・24時間取引が可能
一般的な証券取引所の場合、取引時間は平日9:00~15:00までと限られてしまいます。ブロックチェーンは日本語で分散型台帳技術とも呼ばれ、その名の通り管理が分散されているため、いくつかのサーバが障害を起こしたとしてもシステムを維持しやすい体制となっています。
上記のようなブロックチェーンの特性上、技術的には商品の取引は24時間365日可能となっています。また、決済も証券取引所で扱われる金融商品は通常3営業日かかることが多い中、STOでは即時決済のため、流動性も高いと言われています。
・コストや手続きが軽減
セキュリティトークンは、プログラムを組み込んでカスタマイズできる仕様となっています。その中には「スマートコントラクト」という契約を自動化するしくみや、配当の分配などの作業も組み込むこともできます。従来の手作業をデジタルによって自動化するため、人件費のコスト削減がされ、発行体にとっては資金調達の垣根が低くなり効率が上がります。
投資家にとっても、取引コストが低くなることで、効率のよい投資を目指せるのです。
・所有権を小口化できる
上記に付随して、今まで難しかった資産の小口化も自動化により容易に行なえるようになります。つまり、一つの資産を多くの人が細かく分割して所有できるのです。
これにより、個人投資家はこれまで手の届かなかった高額の投資市場に、少額で参入できます。特に美術品や不動産に関しては、注目が大きくなってきているといえるでしょう。
ただし、STOの課題として、税制の整備の必要性や、各国で金融商品取引法等の法律が異なっている点などがあります。
IPO、ICOなどとの違い
IPOとは Initial Public Offering=新規株式公開の略称で、「未上場企業が、取引所に上場し株式を公開すること」を意味します。従来、個人投資家の株式の売買はIPOで上場した企業に対しての投資が主でした。
ICOはInitial Coin Offering=新規コイン公開の略称で、「新しいコイン(暗号資産)を、デジタル証券取引所に上場させ公開すること」を指します。ICOは2017年~18年にかけて急速に広がった、新しい資金調達方法でした。
ICOもSTOも、デジタルトークンの発行による資金調達という経緯は同じですが、ICOで用いられるトークン(コイン)は金商法の規制対象ではありません。一方、セキュリティトークンは金商法で定められた有価証券であるため、金商法の規制を受ける点が大きな違いとなります。
つまりSTOは、ICOよりも情報開示の仕組みが整っており、かつIPOよりも幅広い対象に投資することができるといえます。
セキュリティトークンの展望
セキュリティトークンの普及により、今まで法規制に沿うとIPOしか資金調達の道筋が無かったベンチャー企業や、美術品・不動産などの小口化が難しい投資対象が、新たな方法で資金調達を行なえるようになる可能性が出てきました。これまでに無かった魅力を持つ投資商品の提供により、社会でのセキュリティトークンの認知度が上がることが予想されます。
また、STOのリターンの仕方については、従来の金銭でのリターンだけではなく、サービスをリターンに含めることも可能と言われています。このため、ファンが多いエンターテイメントやアートの分野でも、投資家限定のサービス等の従来に無かったリターンを含める商品も出てくるでしょう。
リターンの多様化や小口取引ができるSTOは、新たな価値創造の可能性を秘めている
有価証券とトークンを組合わせたセキュリティトークンは、デジタル化による効率化やコスト削減だけにとどまらず、リターンの多様化や小口取引によって、新たなビジネスモデルの構築、そして新たな価値の創造へ結びつけることが期待されています。
このような可能性を持ち、投資商品を金商法の規制の中で提供できるSTOは、投資家の認知度が向上し普及していくとみられているのです。
専門家プロフィール
米山怜子
Orange Consultancy代表、持続可能な経営や社会の実現を目指すオランダMBA卒リサーチコンサルタント。企業向け市場調査・戦略立案・統計分析やSDGs関連記事の執筆、経営者向けコンサルティング・コーチング、中小機構国際化支援アドバイザーを務める。講演先は東北経済産業局、日欧産業協力センターなど多数。STO関連では資金調達時の事業計画書・商品プラン作成、関連記事執筆等を日英言語で対応している。
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