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いつかではなく、今こそすべき親の介護の準備


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    親が要介護状態になったときを想定しておくことは、誰にとっても必要です。備えが十分でないと、将来的に介護貧乏という事態に陥りかねません。ではどんな準備をすればよいのでしょうか。ファイナンシャル・プランナー(CFP)の塚原哲さんに、詳しく教えていただきました。

    介護は誰にでも起こりうる問題

    両親が元気だと介護は遠い話のように感じますが、男女とも75歳を過ぎると介護を必要とする割合が急増します。グラフのように、女性では80代前半で3割、90代では実に7割以上が、要支援・要介護認定を受けているという現状です。

    ※年齢別・男女別の要介護・要支援の認定者数(総務省統計局による2020年10月1日現在の推計値)を年齢別・男女別の人口で除して算出した要介護・要支援認定の発生率(生活経済研究所長野による算出)

    「備えの土台となるのが、公的介護保険制度です」と、塚原さんは解説します。

    「これは市区町村が保険者となり、40歳以上の住民が被保険者となる制度です。被保険者は要支援や要介護と認定されると、訪問介護や訪問入浴介護、通所リハビリテーションなどさまざまなメニューから必要なサービスを組合わせて受けることができ、その費用の原則1割(※1)を被保険者が、残りを市区町村が負担します」(塚原さん、以下同)

    要介護度、つまりどの程度の支援や介護を必要とするかによって、受けられるサービス額の上限(支給限度基準額)が決まっています。例えば、一番軽い「要支援1」の人は、1カ月あたり5万320円分(※2)までの介護サービスを5,032円で受けられ、それを超えた分は自己負担となります。一番重い「要介護5」となると、36万2,170円分(※2)までのサービスを3万6,217円で受けられて、それを超えた分が全額自己負担になるしくみです(金額は2021年4月の改正に基づく)。

    ※1 一定以上所得者は2割、現役並み所得者は3割
    ※2 上記は最低の限度額であり、実際にはお住まいの地域や受けるサービスの種類によって変動します。

    介護に5年で1,000万円必要になることも

    では、実際に介護にはどのくらいの費用がかかるのでしょうか。

    「介護には大きく2つのタイプがあります。1つ目は在宅(居宅)介護で、全体の8割を占めており、残りの2割が老人ホームなどの施設介護です。両者で費用は大きく異なり、例えば「要介護2」の人を在宅介護する場合、公的介護保険を利用している方の介護サービスの自己負担額は平均で月約1万300円。「要介護5」の人の場合は、平均で月2万4,000円です」

    実際は、これに紙おむつなどの介護用消耗品代が数千~数万円かかります。

    ところが施設介護となると、桁が変わってきます。

    「老人ホームの中で受ける介護サービスは介護保険制度の対象ですが、部屋代、水道光熱費、食費などの居住するための費用、いわゆるホテルコストは全額自己負担になり、これらを合計すると安く見積もっても1カ月15万円程度はかかってしまいます」

    特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護療養型医療施設の3施設は入所一時金がかからず、有料老人ホームと比べると安価に利用できますが、地域によっては入居待ちの行列ができている状態であてにできない場合があります。

    「介護施設の入所期間は平均5年弱なので、老人ホームでの介護では15万円×60カ月で、最低でも900万円は必要になる計算です」

    これに3食以外の間食代や嗜好品代などが加わるので、5年間で総額1,000万円はかかると覚悟しておく必要があります。

    夫婦の介護費・医療費を、合わせ技で安く抑える

    在宅介護は施設介護ほど費用がかかりませんが、それでも毎月の出費となると大きな負担です。両親そろって要介護状態になるということもあり得ます。

    公的介護サービスの自己負担分に関しては、救済策があると塚原さん。

    「高額介護サービス費の制度がそうです。その前に、医療費における高額療養費制度はご存じでしょうか。高額な医療費を支払ったときに、自己負担限度額を超えた分が加入する健保から払戻されるという制度です」

    限度額は年齢や所得によって異なりますが、年金生活世帯の場合、多くは1世帯あたり月2万4,600円が上限とされます(世帯全員が市町村民税非課税であること)。

    「高額介護サービス費は、その介護版といえます。介護サービスの自己負担額が大きくなると、基準を超えた部分が申請により払戻されます。この“1世帯あたり”というのがポイントで、夫婦共に要介護5で上限いっぱいまで介護サービスを利用しても、2人で1カ月2万4,600円の負担で済むことになります」

    もう1つ知っておきたい制度があるとも。

    「夫婦の一方が要介護状態で、もう一方が病気の療養中ということもありますね。それぞれ月2万4,600円の自己負担で済んでいたとしても、2人だと月5万円、年間約60万円に上ってしまいます。そんなときに使いたいのが、高額医療・高額介護合算療養費の制度です。医療費と介護費の年間の自己負担額の合算が自己負担限度額を超えると、超えた部分を戻してくれるという制度です。一般的な年金世帯の場合、世帯での自己負担限度額は年間31万円です」

    夫婦で年間31万円を支払えば、介護サービスと医療サービスを受けられるというわけです。

    具体的な申請方法は、市区町村の保険窓口、介護保険窓口でお尋ねください。

    企業や労働組合の共済を上手に活用

    気になるのが、公的介護保険の対象になっていないホテルコストなどの出費ではないでしょうか。

    施設に入居するには入居一時金もかかります。親の介護のために子どもが就労時間を減らしたり、休職したりすると、収入が減ってしまうこともあるものです。これに対し塚原さんは、「現金での備えは必要。介護一時金の出る民間の介護保険に加入しておくことを勧めています」と説きます。

    「保険商品や共済制度を選ぶ際は、返戻率の高い商品を選ぶことがポイントです。70歳まで加入すれば、要介護2以上に認定されると500万円を介護一時金として受取ることができ、もし要介護にならなければ同額を死亡共済金として受取れる共済もあります。労働組合の共済は割安なものが多いので、早めから探しておくとよいでしょう」と塚原さんはアドバイスしてくれました。

    まず現役世代の組合員が加入する必要がありますが、共済商品の中には配偶者とその親も加入できるものがあります。介護保険、介護共済の多くは、70歳まで加入が可能です。親がこの年齢に近づいているご家庭なら、ご両親を交えて早めに検討してはいかがでしょうか。

    高齢の親が入れる保険も

    「最近は、親が高齢になっても加入できる保険商品も登場しています」と塚原さん。いざ介護が始まると、仮に在宅介護ではあっても、自宅の改装や介護用ベッドの購入が必要になるなど、何かと物入りです。そういう事態に備えて、親のために介護保険に加入しておくことも考えておくとよいでしょう。

    「近年は多くの企業が社内の介護支援制度の整備に注力しています。保険商品や共済制度について調べるのと並行して、自社の制度を知っておくことも大切ですね」

    いつかに備えて、早めの準備が肝心と言えそうです。

    <塚原氏プロフィール>

    塚原哲 氏

    生活経済研究所長野 所長、CFP ファイナンシャル・プランナー。1970年東京都生まれ。1993年、早稲田大学理工学部卒業、精密機器メーカーに入社。1998年AFP資格を取得。FPの組織化に尽力。2000年CFP資格を取得し、翌年に生活経済研究所長野を設立。以降、日本FP協会関東ブロック・副ブロック長、日本FP協会評議員などを歴任。労働組合コンサルタントとして活躍する一方、家庭向けの家計管理やライフプランニングにも詳しい。著書に「銀行・保険会社では教えてくれない 一生役立つお金の知識」(日経BP社)がある。

    (文/松田慶子)

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