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病気の治療から食糧不足まで対象に!今、世界を変えつつあるゲノム解析・編集のスゴさとは


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    千葉 直史さん

    日興アセットマネジメント株式会社

    シニア マネージャー

    2014年から現職。国内外の個人投資家、機関投資家向け運用戦略の立案・開発及びマーケティングを担当する。ロボティクス、FinTech(フィンテック)、ブロックチェーン、自動運転技術、ゲノム解析・編集など、社会的インパクトの大きい技術分野の調査を行なっている。

    「ゲノム」で私たちの暮らしは大きく変わる?

    最近では、病院で診断や治療の精度を高めるため遺伝子検査を受けるケースもあるなど、遺伝子やゲノムといった言葉は、それらを活用した技術とともに私たちの暮らしに少しずつ浸透し始めています。

    「とはいえ、ゲノムを扱う知識と技術が世界を変える……そんな言葉を聞いても、素直に『なるほど』と思える人は少数派かもしれません。しかし、すでに医療分野ではがん治療のほか、患者数が非常に少ない希少疾患の治療などで、ゲノム関連技術を活用する動きが本格化しています。また食糧生産分野や工業分野などでも日進月歩で研究開発が行なわれているのです」

    こう話すのは、国内大手の資産運用会社で投資信託などの商品開発を行ない、社会を変えるようなインパクトの大きいテクノロジーにも詳しい千葉直史さん。既に具体的な製品の開発が進展しており、分野ごとに規制やガイドラインの整備が行なわれている状況とのこと。その意味では、すでにゲノムで世界は変わりつつあるのかもしれません。

    しかし、ゲノム解析やゲノム編集といった言葉は最近のニュースなどによく出てくるものの、実際にはどんな意味なのでしょうか。

    「ゲノムとは生物それぞれが持つ全遺伝情報のことで、各生物の体などを作る設計図のような役割を持っています。なおゲノム(genome)という言葉は、遺伝子(gene)とラテン語ですべてを意味する「-ome」を併せた造語(genome)とされています」

    もともと遺伝子の研究は古くから世界各地で進められていましたが、1980年代の終わりに始まった国際プロジェクト「ヒトゲノム計画」によって大きく発展。このプロジェクトは名前の通りヒトのゲノム配列の解読が目的で(2003年に完了)、このような大規模な研究で培われた技術や知見を礎に、ゲノムに関する研究はここ10数年で急速に進化してきました。

    現在では多様な生物のゲノムを読み取ることが以前に比べて容易になり、さらに人工知能を用いることでそれぞれの遺伝子の役割も徐々に明らかになりつつあります。その活用範囲は非常に広範で、私たちに身近な医療や食糧の分野のほか、エネルギーや環境保全などさまざまな分野に可能性が広がっています。

    ゲノム解析・編集の現状は?これからどうなる?

    夢や希望が大きくふくらむゲノム解析・編集の技術ですが、その現状と今後への期待について千葉さんに紹介してもらいました。

    「ゲノム解析は『ヒトゲノム計画』以後、技術革新によりその読み取りスピードとコストが劇的に低下し続けています。そしてその利便性の向上により、多様な動植物や個々人にいたるまで、多くの生物のゲノム解析が行なわれるようになりました。結果として、各生物のデータが多く集まるようになっており、人工知能を用いた情報処理技術の進化も相まって、各生物の遺伝情報のどの部分がどんな特徴と関連しているかといった『翻訳』も一気に進みました」

    こうした解析技術で得られた知識を活用し、それに手を加えることができれば、前述したような特定の目的のため(例えば果物の実や畜産物の肉を増やす、遺伝子に起因する病気を治療するなど)、生物の特性を変化させることが可能になります。それを実践するための技術がゲノム編集なのです。

    「これまでもさまざまなゲノム編集技術が開発・利用されてきましたが、その中でもゲノム編集に大きなブレークスルーをもたらしたのが、2012年に生まれた『CRISPR』と呼ばれる編集技術です。この技術は従来の方法よりも容易に編集ができ、コスト低減や時間短縮により急速に普及しています」

    現在、その中でも多様な分野で用いられているCRISPR-Cas9に関連するヒト向け商用利用ライセンスを持つ企業は世界に数社存在し、ゲノム編集分野で重要な役割を果たしています。このほかゲノム解析・編集に関連する企業としては、解析機器を開発するメーカー、ゲノム編集で新たな製品を開発する企業などがあり、それぞれが独自技術を競い合っています。

    「ゲノム編集は人間を含む全生物に影響を及ぼすことが可能であり、生物の設計図とも呼ばれるゲノムに手を加えるという非常に強力な技術です。各国政府や研究者からは倫理面・安全性の面から慎重な導入が検討されており、とりわけヒト向け分野では、まずはゲノム編集が治療の鍵になると考えられている希少疾患やがんなどから製品の開発がすすめられています。一方で、農作物分野においては、今年米国農務省からゲノム編集作物は規制の対象にはあたらないとの見解が発表され、様々な高機能作物が開発されています。いずれも近い将来、人類の課題を解決する助けになることが期待されています」

    ゲノム解析・編集への期待を資産運用に役立てるには

    ではこうしたゲノム解析・編集に関連する企業の動きを、私たちの資産運用に生かすことはできるのでしょうか。改めて千葉さんに伺いました。

    「私はゲノム解析・編集は一過性のブームではなく、これから数十年続く成長分野になる可能性があると考えています。非常に大きな夢のある分野でもあり、例えば今の30代、40代の方が将来のために長期投資を行なう対象の一つとして考えていただけるのではないでしょうか。ただ、非常に専門性の高い分野のため、個人の投資家が自分で期待できる企業を選んで投資するというのは、判断するための情報も不足しており難しいように思います」

    このため、ゲノム解析・編集に関連した企業に分散投資する投資信託の利用も検討してほしいと千葉さん。そのような投資信託の中には、ゲノム関連事業の企業に詳しい専門家が調査やファンド運用に参加しているなど、独自の強みを持つものがあるとのこと。また運用で得られた収益の一部を、希少疾患の研究機関や治療現場、支援団体などに寄付をする予定の投資信託もあり、投資を通じて直接的な社会貢献もできるそうです。

    「ゲノム関連事業は大きな成長が期待できる一方で、企業ごとに見ると研究開発先行型のビジネスが多い分野だと思います。その意味でも特定の企業一社に投資を集中させるのはリスクが大きいかもしれません。ご自分のポートフォリオ(資産運用のための商品の組み合わせ)の中で、ある程度のリスクを踏まえながら分散投資で長期的な成長を目指すような手法が向いているかもしれませんね」

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