海外大学への進学、実際はいくらかかるの?メリットは?
新型コロナウイルスの勢いが終息したら海外の大学に進学したい――。お子さんがそう言い出したら、どうされるでしょうか。「海外に行かせるなんて不安」「きちんと学びを身につけられるのか」といった悩みはもちろんですが、「学費に加えて渡航費や滞在費なども考えると経済的に厳しい」と考えるご家庭も多いのではないでしょうか。しかし国際教育に詳しい村田学さんは、「奨学金の利用や進学先の工夫をすれば、一般的な家庭でも海外留学は無謀な挑戦ではない」と語ります。海外留学のメリットとともに、金銭面はどうすればクリアできるのか伺いました。
目次
海外の大学のほうが将来的に学費を“回収”しやすい!?
そもそも海外で学べるだけの語学力が備わっているのか、外国できちんと生活できるのかなど、心配になることは多々ありますが、やはりお金を出す親としては、留学に一体いくらかかるのかが気になるでしょう。
「例えば米国のハーバード大学は、年間授業料が約55,000ドル、寮費+食費が約19,000ドル。合わせて1年間に約74,000ドルが必要になります。日本円でおよそ850万円くらいですね。ハーバード大学は特に高額ですが、欧米の一般的な大学でも学費と生活費で年間600万円くらいかかるのが一般的です」(村田さん、以下同)
この金額だけを見ると足がすくんでしまいますよね、と村田さんは笑って話を続けます。
「でもこの金額はいわば“定価”。日本ではあまり知られていませんが、費用負担を減らす方法がいくつもあります。それに、海外留学には高い教育費をかけるだけのメリットがあるんですよ」
金銭面は工夫のしどころがあるようです。それならばひと安心。まず海外留学のメリットから伺っていきましょう。
村田さんは第一に「最先端の学びができること」を挙げます。
「先進の技術や研究を、現地で、しかも英語で学ぶことができます。今は日本企業においても海外との取引は当たり前。だとすれば、最初から英語で最先端のことを学べるというのは大きなメリットです。もちろんグローバル企業にも就職しやすくなります。そして、グローバル企業は概して初任給が高いのです。年功序列の考えが根強く残る日本だけが低いといってもいいでしょう。例えばハーバード大学を出た人なら、初年度で800万~1,000万円が提示されます。中堅どころの大学であっても、就職の選択肢は多いでしょう」
在学費用は高くても将来的に“回収”できる可能性は大いにあるのです。
大学進学が、即リクルートの準備になる
もちろん日本の大学を出てグローバル企業に入るということも可能ですが、ハードルの高さが異なります。
「なぜなら日本と海外の大学では入試のシステムが違うからです。欧米の大学は日本の入試のように学力を見るだけでなく、この大学に入って何をしたいのかという点も重視します」
受験生は、自分がどんな社会課題に興味を持っているのか、解決のために大学で何を学びたいのか、そしてその社会課題に対してこれまでどんなアクションを起こしてきたのか、といったことを小論文やレポートにまとめてアピールする必要があります。
「ここで求められる発想やスキルは就職活動で求められるものと基本的に同じです。社会に出てキャリアアップしていくマインドが、大学入学の段階でできるわけです」
これが就活に有利に働くことは明らかでしょう。
近年はマレーシアやフィリピンなど、アジアの大学への留学も増えています。欧米に比べて生活費が安く、多国籍国家で多様な人とコミュニケーションを取る力が養えるという期待が背景にあるようです。
「このような国への留学も、“アジアで即戦力になる”“グローバルで闘える人材だ”と企業に踏んでもらえるので、多くの学生がグローバル展開する大手の日本企業や外資企業に就職していきます」
3つの奨学金で費用をカバーすることも可能
いくら将来的に多くの給与が見込める可能性があるとはいえ、1年間に500~600万円の学費がかかるというのでは、現実的に捻出は難しいものです。でも、「大丈夫」と村田さん。
「実は欧米の名門大学の多くは学生に奨学金を出していて、家庭の所得に応じて授業料が変わるという特徴があります」
大学がホームページ上に授業料を決めるフォームを公開していて、誰でも年間授業料の算出が可能です。まずその額を見てから出願するという流れが一般的なのだといいます。
「このほか、日本学生支援機構の海外留学支援制度のような日本国内の奨学金制度があります。また進学先の国や地域の奨学金もあります。例えば大学のある地域の名士による奨学金制度や、製薬メーカーが薬学部の学生を対象に給付するといった、企業の奨学金制度などです。大学と日本、現地の3つの奨学金を組合わせることで、学費はもとより生活費まで賄えるケースもあります」
規模の小さな大学では、独自の奨学金制度を設けていないことがありますが、ほかの2つの奨学金制度を利用すれば負担は大きく軽減できます。
進学先の視野を広げると、多様な選択肢が
もっと費用を抑えたいという場合は、国選びを工夫するという方法も。
「医学系では、ハンガリーやチェコなど、東欧の大学が注目されています。日本の私立大学で医学部に通うとなると、6年間で2,000万円以上かかるところが大半です。しかしこれらの国なら、英語で授業を受けられ、しかも学費が年間170万円程度と安いです。さらに、EU圏で使える医師免許を取得できます」
ちなみに米国で医師免許を取得するとなると、一般的に大学4年+メディカルスクール4年で、合計8年間かかります。この8年間にかかる費用が4,000万円程度かかることを考えると、いかに東欧の大学の学費が安いかがわかるでしょう。
さらに村田さんが“穴場”と言うのがドイツです。
「ドイツは大学の授業料が原則無償化されているのですが、これは外国人にも適用されるのです。英語コースもありますが、ドイツ語を話せない人には無料のドイツ語レッスンも用意されています。もしくは、将来GAFAのようなIT企業への就職を考えているなら、インドの工科大学もねらい目です。最先端のITを英語で学べ、学費、生活費とも安く済みます。何より、GAFAなどはインドの技術に一目を置いているので、日本の大学から目指すよりもよほど近道です」
実はGAFAの技術者の多くはインド出身なのだそうです。
「インドの大学で人脈を作ることが、GAFAへの近道だといえます。しかも日本人にとっては、米国の大学よりも留学しやすいかもしれません。学生の構成が偏ると知識の構成が偏ると考え、トップレベルの大学ほどさまざまな国からの留学生受け入れに積極的です。日本からインドに進学する学生はまだ多くないので、受け入れられる可能性は大いにありますよ」
留学するなら先進国の大学、と考える人もいるものですが、「新興国の勢いにのって世界の最先端に行くというルートもある」と村田さんの言葉に力が入ります。
子どもが行く気になったら早めに情報収集を
海外の大学への進学は夢ではないかも……。ですがお子さんが高3になって、「やっぱり海外で勉強したい」と言い出したのでは、遅いのでしょうか。
「まず、海外の大学に行きたいけど学力や語学が不安、という場合は、海外のコミュニティカレッジに行くという方法があります。コミュニティカレッジは、いわば短大で、4年制大学のような厳しい審査はありません。ここで教養科目の単位を取得し、3年時から4年制大学に編入するという人はけっこういます。英語が苦手な人向けの英語習得コースもありますよ」
4年制大学より学費が安いので、費用を抑えたい人も使っている方法だそうです。
「最初から4年制大学を志すという場合ですが、日本と海外では入試制度がだいぶ違うので、日本式の受験勉強だけで、海外の大学を狙うのは困難です。一方、先述のような海外大学への準備、つまり社会課題に興味を持ち、自分なりに考えをまとめたりすることは、日本の大学のAO入試でも問われます」
東大をはじめ難関国立大学でもAO入試が行なわれています。その対策になるというわけです。海外の大学が選択肢に挙がったら、さっそく軸足を留学対策に置き換えたほうが有利でしょう。親としては、子どもの選択肢を広げてあげるためにも、子どもが海外に興味を持ったら情報を集めておくことが大事。
「留学エージェントや海外大学進学塾などでは、授業料や奨学金制度とセットで進路相談をすることができます。インターネットで検索する場合は、大学のホームページのほうが詳しく掲載しています」と村田さん。現在は新型コロナウイルスの影響で、かつてほどには自由に日本と海外を行き来しづらい状況ですが、数年後は状況が変わっているかもしれません。早めから広く情報を入手しておくことが親の役割といえそうです。
<プロフィール>
村田学さん
国際教育評論家。米国カリフォルニア州トーランス生まれ。小中高校は帰国子女として日本の公立校に通う。大学では会計学を専攻。学校事務などを経て、2012年4月に国際教育メディア「インターナショナルスクールタイムズ」を創刊し編集長に就任。都内のインターナショナルスクール理事長、教育系ベンチャー企業の役員、教育NPOの監事などを歴任し、現在はeduJUMP!編集長およびセブンシーズキャピタルホールディングスの代表取締役を務める。
(文/松田慶子)
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