【児童手当改正】これからの子育てに大切なのは“夫婦で一緒”に家庭を築いていく姿勢
児童手当が2022年10月から改正され、一部の高所得世帯への支給が廃止されることが2021年5月21日の参院本会議で可決されました。それを受け、「我が家には影響あるの?」、「今後の子育て支援はどうなっていくのだろう?」と思われた方もいるのではないでしょうか。今回は児童手当の改正を中心に、子どもを育てていく上で必要なお金や働き方について、「家族の経済学」を専門に研究する山口慎太郎さんにお話を伺いました。
目次
今一度おさらい「児童手当」ってどんな制度?改正でどう変わるの?
児童手当とは、児童を育てる保護者に対して、行政から支給される手当です。子育てをしている家庭の生活の安定や健全な養育を目的として支給されています。現在住んでいる市区町村にて手続きを行ない、原則として年3回(2月、6月、10月)、それぞれ前月までの分が支払われます。
2022年10月の改正後は、世帯主の年収が1,200万円を上回る場合は支給が廃止されることになりました。この改正により受給対象から外れる児童は約61万人で全体の4%とされており、財政効果額は370億円と試算されています。
この改正の背景には、社会保障費の急激な増加を受けて、子育て家庭が適切な支援をしっかりと受けられるように支援の中身を見直す必要性が高まったことなどが挙げられます。具体的な金額については下記の表をご参照ください。
※所得制限については、子どもが2人いて、配偶者の年収が103万円以下の場合。扶養人数に応じ、所得の上限額は異なる。
児童手当の改正で、子育て支援政策全体にプラスの影響も
今回の改正で、世帯主の年収が1,200万円以上の家庭は子ども1人につき月額5000円(年間6万円)の手当が受取れなくなる……これが最も大きな変化です。では、その他の変化はないのでしょうか。
政府は2024年までに約14万人分の保育の受け皿を整備すると目標を掲げており、児童手当の支給をカットすることで浮く370億円は、待機児童対策へ充てられることになっています。つまり、未就学児を育てている世帯全体としてみるとプラスの影響があるともいえるでしょう。
「子育て支援政策には、児童手当のように現金で支給される支援と、保育所のように現物で支給される支援の2つの方法があります。極端な話をすると、現金で支給されると親自身の遊興費に充てることもできてしまいますが、現物で支給されれば、確実に子育ての用途で使われるという利点があります」と山口さんは話します。また、少子化対策という点でも保育サービスの拡充は効果があるといいます。
「実は、ヨーロッパの研究で出生率の高い国と、低い国ではどのような違いがあるのかと調査したとき、父親が家事や育児に参加している国ほど出生率が高いことがわかりました。女性が家事育児、そして仕事までを一手に担うのではなく、夫婦で分担していくことで出産にも前向きになっていけるのではないでしょうか。また、現代では出産しても働く女性が多く、保育所のニーズが多いのも事実です。保育所を利用しやすいように整えておくことで、母親がワンオペ育児に陥るのを防ぎ、その結果少子化を食い止めることに繋がると考えられます」(山口さん)
また、2019年10月から3歳児以上のクラスの幼児教育・保育の無償化がスタートし、家計の負担は大きく減りました。現在でも住民税非課税世帯などは0~2歳児クラスでも保育所などが無料となっていますが、無償化が広がる可能性もあるのでしょうか。
「0~2歳児の保育は多くのお金がかかるので、一気に全世帯の負担がなくなるというのはないかと思いますが、将来的に保育料の一層の減免などに繋がるかもしれませんね。今回の児童手当の改正は不満の声も多くありましたが、子育て支援に対する予算が減ったわけではありません。ゆっくりとではありますが、今後子育て支援は充実する方向に向かっていくと見ています」(山口さん)
子育てにかかる費用、どうやって準備するのが正解?
月々の児童手当。決してこれだけで子育てができるわけではありません。特に、教育費に関しては年々増加傾向にあります。国立大学の学費を例にすると、1990年に33万9,600円だった授業料標準額は、現在53万5,800円となっています。さらに文部科学省は、国立大学の授業料の自由化について検討を始めています。増えるばかりの子育て費用はどのように準備していけば良いのでしょうか。
「高校の無償化は進んできましたが、大学までの無償化がすぐに実現するとは考えられません。将来の学資を貯めておくことはもちろん必要ですが、働き続けて収入を減らさないことも大事だと思います。もちろん、幼い子どもを抱えて働くことは大変ですし、待機児童問題もあります。しかし、正社員を続けていれば産休・育休中の手当もしっかり出るため、家計面では大きなメリットがあるといえるでしょう」(山口さん)
「かつて言われていたような終身雇用の時代ではなくなりました。大企業に勤めていても倒産するかもしれないし、リストラもあります。そのほか、病気やケガで働けなくなることもあるでしょう。夫婦ともに働き続けることはリスクヘッジにもなりますね」(山口さん)
制度はあるのに使われていない……男性の育休制度
夫婦ともに働き続けるために、大切なのはやはりお互いに協力し合うこと。夫婦で一緒に家事や子育てをしながら働くというスタイルが理想です。
妊娠・出産のタイミングにおいて、夫婦で「どのように子育てをするか」「どのように子どもにかかるお金を準備するか」「そのためには夫婦がどのような働き方をするか」についてしっかり話し合う必要がありそうです。
「父親も育休取得や時短勤務をしながら子育てをし、母親が正社員で働き続けられるようにしてほしいですね。父親の育休取得は、その後の家事育児への参加や夫婦関係にも影響があります。アイスランドの研究では、父親の育休取得が夫婦関係の安定に繋がるという結果も出ています」(山口さん)
「実は、日本の男性に対する育休制度は世界最高レベルなんです。育休を取得できる期間も長いし、もらえるお金も多い。しかし実際に利用しているのは12%程度(2020年度)。制度はあるのに機能していないのが実情です」(山口さん)
かつて女性の産休や育休も、制度はあっても職場によっては使いづらいケースがありました。しかし、当然の権利だと取得率が上がっていったことで、風向きが変わっていきました。男性の育休取得や時短勤務も、利用する人が増えていけば変わっていくのではないでしょうか。
「ただし、夫婦でしっかり稼いでも、上手に使っていかないと老後資金に影響が出てしまうこともあります。子育て費用は青天井なので、どのように使っていくかをしっかり考えることも大事です。子どもにとって何がベストかを考えるときに、つい近所の子どもや親戚の子どもと比較してしまいがちです。自分の子どもにとっては何が向いているのか、個性に合わせて選んであげられるといいですね」(山口さん)
多忙なスケジュールやプレッシャーで子どもから笑顔が消えてしまっては、元も子もありません。家族の生活、夫婦の収支、子どもの人生……。上手にバランスを取りながら、実りの大きい選択をしていけるといいですね。
<プロフィール>
山口慎太郎さん
東京大学経済学部・政策評価研究教育センター教授。専門は、結婚・出産・子育てなどを経済学的手法で研究する「家族の経済学」と、労働市場を分析する「労働経済学」。『「家族の幸せ」の経済学』(光文社新書)で第41回サントリー学芸賞を受賞したほか、ダイヤモンド社 ベスト経済書2019 第1位に選出。
取材・執筆/中山美里
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