“評価”“比較”“期待”は一切なかった。あの両親に育てられたから今がある!書道家武田双雲さん
様々な分野で目覚ましい活躍をされている著名人たち。その人たちは、どんな子ども時代を過ごしたのでしょうか。ご両親はどんな育て方をなさったのでしょうか。本コーナーは、そんな著名人の“育てられ方”をクローズアップ。ご両親の人となりや育児姿勢を探ります。第1回では、書道家の武田双雲さんに伺いました。
目次
プロフィール
武田双雲さん
書道家。1975年、熊本県生まれ。3歳から書家である母・武田双葉に師事。東京理科大学卒業後、NTTに約3年間勤務し、書道家として独立。映画「北の零年」、NHK大河ドラマ「天地人」ほか、数多くの題字、ロゴを手がける。近年は現代アート作品を発表するほか、育児書を上梓するなど活躍の場を広げている。著書は『「子どもといること」がもっと楽しくなる 怒らない子育て』(主婦と生活社)他多数。
両親は“絶賛”眼鏡をかけていた
「褒められた記憶しかないんですよ」
ご両親について質問すると、武田双雲さんから真っ先にこの言葉が返ってきました。
武田さんは、競輪専門紙記者の父と、双葉の号で活躍する書家の母のもと、3人兄弟の長男として熊本県熊本市で生まれました。
「両親とも、とにかくエネルギッシュ。特に母は、書道を教えるかたわらエアロビクスのインストラクターもしていたほど。いまだに母以上にパワーの大きい人に会ったことがありません。そんな両親に、絶賛し続けられて育ったんですよ。“大智(武田さん)は天才ばい”“大智は素晴らしか”と。今もそう。先日も母親が実家から電話をかけてきて、1時間、僕の自慢を僕にするんですよ(笑)」
一体どんなことを絶賛されるのか伺うと、「存在自体を肯定してくれる」と武田さん。
「僕が最初の子どもだからでしょうか。生まれたことに感動して、その興奮が今も続いているという感じです。人って知らず知らずのうちに色眼鏡で世界を見ていると思うんです。同じ雨でも、“つまらない”というフィルターがかかった眼鏡をかけている人にとっては憂うつなものに映りますし、“楽しい”眼鏡をかけている人にとっては楽しくありがたいものになります。うちの両親はずっと、“大智は素晴らしい”という眼鏡をかけているんです」
とはいえ、いわゆる褒めて育てる子育てだったかというと、そうではないようです。
「褒めて伸ばそうとしても、その下心が子どもには伝わりますよね。でも僕の両親の言葉には余計なものが乗っていなかった」
例えばテストでいい成績をとった子どもを褒めるとき。自信ややる気を伸ばしたくて、つい褒め言葉に熱が入ることがあるものです。しかし武田家の両親は少々違ったそうです。
「もちろんすごく喜んでくれますが、いつも以上に褒めるわけではない。“大智は天才じゃけん、そりゃそうたい”と受け止める。成人して、書道家としての活動が世の中に認められるようになっても、“分かっとったもん”って言っていました。多分、僕がノーベル賞をとっても、その調子なんでしょうね(笑)」
▲武田家の写真。双雲さん(右端)が10歳の頃
今、この瞬間を一緒に喜ぶ
さらに、両親はジャッジしなかったと武田さんが振り返ります。息子にとってこれは大事、これは大事ではないと区別する発想がない。だから、“大事なことで成功したから褒めて自信をつけさせよう”という考えも持っていないのでは、と武田さんは考えています。
「僕もそうですが、両親もADHD(注意欠陥多動障害)の傾向があるからでしょうか。今、目の前にあることにしか意識が向かない。武田家には未来語と比較語がないんですよ。大学を卒業したらどうするという話も、一切出たことがない。“もっとがんばれ”もない。未来語がないから期待しないし、こうあるべきというものがないから押し付けない」
だから親子関係は良好なのだと武田さんは話します。
「親との関係はものすごくラクですね。僕のオンラインコミュニティの会員さんから、親の存在が重いという言葉をよく聞きます。過度に期待したり、コントロールしたりする親は多いようですね。うちはありがたいことにそれがなかったから、自分でも伸び伸び育ったと思いますよ」
「ただし」と武田さんは付け加えます。
「父も母もジャッジはしないけれど好き嫌いはありますよ。しかも忖度(そんたく)しないから、僕から見ても“どうなの、それ”と思うこともある。例えば、父は6人いる孫のうち、女の子の孫を露骨にひいきするんです(笑)。たまたまうちの親はADHDっぽいからこういう子育てだったというだけで、まねしろと言いたいわけではありません」
素晴らしいと言われるから素晴らしくなる
武田さんは25歳のときに、何のあてもないまま会社を辞めて路上で文字を書き始めました。2人の弟、双鳳さん、双龍さんも、それぞれ地元を離れて書道家として活動しています。決断を支えたエネルギー源も、やはりご両親の育て方にあるようです。
「ずっと“大智は天才ばい”“大智なら大丈夫”と言われて育ったから、自分は大丈夫だと思っていたし、パワーがみなぎっていました。弟2人は僕ほど絶賛されていませんでしたが、比較や押し付けをされずに育った点は同じ。人は比べたり競争したりするとエネルギーがすり減ってしまうものです。僕らは競争とは無縁でした。だからパワーがある。“エネルギッシュだ”と言ってもらえるんです」
武田さんは、15歳、12歳、6歳の、3人の父親でもあります。ご自身の子育てにご両親の子育ては影響しているのでしょうか。
「めちゃくちゃ影響していますよ。僕も子どもの素晴らしさしか見えていません。うちの両親と同じように褒めまくっています。そのせいか、うちの子どもたちは、学校や周囲の大人からも大絶賛されていますね」
子どもは素晴らしいと言われることで、素晴らしくなるのではないかと武田さんは分析します。
「本来子どもは素直だから、褒められるとストレートに受け止めて、自己肯定感を伸ばしていくと思います。ですが、実際にはそうならないこともあります。僕はよく書道教室に通っている子も褒めるんですが、“すげぇな”と言ってもほとんどの子が“そんなことないよ”と真っすぐに受け取らない。褒め言葉に対応するキャッチャーミットを持っていない子が多いような気がします」
純粋な褒め言葉を聞く経験が足りていないのではないかと、武田さんは危惧しているそうです。
とはいえ――。
武田家のように、期待を一切持たずに褒めるのは、難しいものです。どうすればよいのか伺ってみました。
「皆さん“ダメなところ”眼鏡をかけているんじゃないでしょうか。書道教室に通っている子のお母さんから、“この子は何がダメなんでしょう?”と聞かれるんですよ。ダメなことが前提なんですね。その眼鏡をかけている限り、どう褒め言葉をかけても、“あなたは基本的にダメだけど、ここはいいから伸ばしなさい”というニュアンスが出てしまう」
まずはその眼鏡を外すこと。そして“いいところを探そう”ではなく、“いいところばっかりだ”という眼鏡をかけ続けられるよう意識すること。それが、親が子どもと真に向き合うための第一歩になることを武田さんは教えてくれました。
文/松田慶子 撮影/吉澤咲子
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