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仕事も家庭も大切にしたい。“夫婦で起業”という選択肢


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    夫婦で起業し、一緒に会社を作り上げていく。プライベートも仕事も一緒という生き方……どう思いますか?「大変そう!」「なんてハイリスク!!」と感じる反面、「一緒に夢を追いかけられるなんて素敵だな」と憧れを持つ方もいるのではないでしょうか。今回、夫婦で起業して21年になるフォルシア株式会社の最高経営責任者(CEO)屋代浩子さんにプライベートから働き方まで、様々なお話を伺いました。

    ワーキングマザーが“当たり前”ではなかった時代、働くママが感じた辛さとは?

    男女雇用機会均等法が施行された2年後の1988年に社会に出た屋代さん。当時、女性は結婚したら退職をして専業主婦になるという生き方が一般的で、当然、保育施設や学童保育なども今のように整っていませんでした。

    そんな中で、屋代さんは、共働きを続けるだけでなく、3人の子どもを育てながら夫婦で起業するというとてもチャレンジングな決断をし、そして現在まで会社の経営を続けています。女性の生き方としても、夫婦の在り方としても、新しいモデルを示し続けてきたともいえるでしょう。

    第一子を出産したとき、外資系の企業で働いていた屋代さん。義両親のサポートもあり、共働きを続けていましたが、そこに転機が訪れたそうです。

    屋代さん:当時勤めていた企業は、子育てを優先する働き方も認めてくれるところでした。ただ、環境が許してくれても、私自身が早く帰ることに辛さを感じていました。私が先に帰ったら同僚は大変だろうなと思ったり、お給料を貰っているのに自分だけ早く帰っていいのだろうか……と自身を責めたりして、心のバランスを崩してしまったんですよね。また、非常にハードワークな金融業界へフルコミットすることに、夫婦共に限界を感じつつありました。

    そんなときに、転機が訪れました。次女が熱を出して肺炎になり入院することになったのです。当時の屋代さん夫婦は、月曜日から土曜日の明け方まで休まず動き続ける世界の金融市場を相手に働いていたため、平日は両親に泊まり込みで助けてもらってようやく回るような状態。まさに日々綱渡りでした。

    屋代さん:肺炎になるまで子どもの体調の変化に気づかなかったという深い罪悪感がありました。どうやっても生活が回らない。これ以上、今の状態を続けていくのは限界だ……そう痛感し、これが「起業」というステップの背中を押すきっかけとなりました。

    その後、元々夫婦共に「いつかは起業してみたい」という想いがあったため、自分一人で起業ではなく、“夫婦で起業”という選択肢を取ったのだそうです。

    ※写真はイメージです。

    屋代さん:他人の力を借りずに夫婦で起業をしたため(ベンチャーキャピタルにお金を入れてもらうことなどをせずに起業)、自分たちが外資系金融で必死に稼いで貯めたお金が消えていっても、稼げなくても、すべて自分達のお金なので、誰にも迷惑をかけることはない。さらに夫と2人で起業をしたため、第三者(ベンチャーキャピタルのような投資家)に気兼ねする必要がないということもあって、大変ではありましたが、心のバランスは安定しました。

    とはいえ、夫婦のうちどちらか独立し、一方が会社員生活を続けるのであれば、安定収入が確保できます。けれども一緒に独立すると、家庭のお金はすべて自分たちで稼いでいかなければなりません。もし、仕事も夫婦関係もうまくいかなかったら……。そういった不安要素はどう乗り越えたのでしょうか。

    仕事、夫婦、父母としての役割分担は、できるほうができることをやるというシンプルさ

    屋代さん:この起業という選択は、社員やクライアントに対する責任を負うわけですから、気に入らないから辞めたということができない巨大なリスクを背負ってしまうことにもなります。そのため、大崩壊しないように努力してきました。

    屋代さん:お互いにすごく大変な中で一生懸命やっているから、ときにミスをしてしまったり、なにかできないことがあったとしても、どちらも責めないですよね。だから、一生懸命やる、手を抜かないというのは大事にしています。一生懸命やっているとみんなが助けてくれるんですよ。夫婦関係も同じで、お互いに一生懸命前向きにやっていると、自然とこぼれた部分をフォローしあえる関係を作れるのではないでしょうか。

    とにかく時間がない、人の手が欲しい……となりがちなワーキングマザー生活。周囲が気持ちよくサポートしてくれるような状況を作るというのは、とても参考になりそうです。

    さて、このようにとにかく一生懸命自分ができることに取組んできた屋代さん。だからこそ、屋代さんができないこと、不得手なことを「じゃ、僕がやるよ」とご主人が言いやすかったのでしょう。

    家庭、子育て、そして仕事の分担はとてもスムーズだったそう。

    ※写真はイメージです。

    屋代さん:毎日一緒にやっていると、なんとなく棲み分けができていくんですよね。例えば育児面では、子どもが小さいうちは私が対応するほうが事態が収まるので、どっちがいくか議論せず、子どもの緊急事態には私が急行しました。逆に、夜中に会社でシステム障害が起きたときは、夫が対応するというように。瞬発的にどちらかが動いている感じでしたね。

    仕事も同じように、「できるほうができることをやる」そんなスタンスだったそう。

    屋代さん:女性である私が社長なので不思議だとよく言われるのですが、社長の仕事にはモノを売ったり、謝りに行ったりというものがあります。最高執行責任者(COO)である夫はこういう対外的な業務が苦手なんです。彼は理系のエンジニアで緻密な作業が得意。かたや私は、人付き合いが好きで営業も苦ではありません。ですから、これも議論をせずに、私が表に出て、夫が開発を守ると決まりました。2人ができる最大限のものを出し合って、何ができるかと考えながらやってきた感じです。

    今のご時世、チャットアプリを使うことでビジネスの状況や、社員の状況を把握できますし、夫婦で特段、口頭での会話をしなくても、お互いに何をやっているかがわかるようになりました。そのため、「これは私がやらなきゃ」「これは夫がやってくれているな」と、お互いに自発的に動いて解決しているとのこと。とても理想的な関係ですね。

    そんなお二人が目指しているのは「社員がフォルシアで技術力を身につけて、いろいろな自己実現をしていけるような会社」とのこと。

    屋代さん:どんな人でも、女性でも、やる気があって頑張ったら、楽しくなるような会社を作ろうという目的で始めました。起業当時、日本の優秀な学生の多くが、外資系企業で働きたいと考えている状況を見ていて、日本企業で働くというチョイスを若い人たちに提供したいなという思いもありました。

    ※写真はイメージです。

    忙しい毎日の中で大切にしてきた子どもとの関係 “一緒にいる”“一緒にやる”ことで安心感を

    まさにワーキングマザーの先駆者として働いてきた屋代さん。忙しい毎日の中で、3人のお子さんの子育てはどのようにしてきたのでしょうか。

    屋代さん:もうみんな大学生なので、週末に家族全員が一緒に過ごすことは少なくなりましたが、小さいときは、平日に一緒にいられない分、週末はずっと密着していました。とはいえ、1週間分喋ることはできないから、プールに行ったら必ず子どもと一緒に入ったり、テニスをするなら一緒にやるというように、何かを一緒に楽しむことを大切にしてきました。

    日常でも、子どもたちがかなり大きくなるまで、家族全員で川の字で寝たり、リビングに学習机を置いたりして一緒にいる時間を長くとれるよう工夫してきたそう。

    屋代さん:夜は一緒に家でサッカーや卓球をしたりしてました。家のリビングのシャンデリアは何度割ったことか。今考えれば危ないですが、とにかく一緒に何でもやりました。子どもたちが出来るスポーツは全部私が遊びながら教えたものです。一緒にいる時間を増やして、スキンシップをしっかり取っていたら、自分自身納得できるし、安心できますしね。

    また、兄弟が一緒に行動できるような工夫も伺いました。

    屋代さん:うちの場合は、子ども3人の年齢が近いので、3人が協力していける環境を作ることを、よく考えていました。例えば習い事のバッグは、3人分ずつ部屋にかけておき、すべて中身をあらかじめセットしておいて、子どもたちだけで出かけられるように。特に次女はしっかりしていたので、末っ子の荷物を準備して、背負わせて、「はい、行くよ!」とやってくれていましたね。

    このように兄弟が自主的に協力し合えるのも「お母さんもお父さんも一生懸命頑張っているから、私たちがフォローしなきゃ!」と子どもが感じたことによる結果なのかもしれません。

    働くことも、子育ても自分の為だけにやってることではない「社会貢献」だから自信を持って楽しんで!

    一生懸命やっていても、ときには失敗するし、後悔することもある。落ち込むことだってきっとあるでしょう。そんなとき、「自分ってダメな親なのかな?共働きがちゃんとできるほどの能力がないのかもしれない」と思うこともあるかもしれません。でも、完璧に見える屋代さんも、こんなことを言います。

    屋代さん:人生って全員片道切符じゃないですか。子育てもそう。もう1回やらせてもらったらもっとうまくできる自信があるけれど、もう1回やり直すことってできないんですよね。全員一方通行だから、全員うまくできないんです。正解もなくていい。上手にできなくても、人と比べないで、自分なりに一生懸命やればいい。そう思っています。

    子育てだけでなく、例えば、“仕事”についても片道切符。だから、試行錯誤しながらも、起業というチャンスが巡ってきたら、飛び込んでみるのもひとつの手かもしれません。

    屋代さん:本音ベースでいうとサラリーマンほど便利なものはないんですよ。嫌だったら辞めるという選択肢も残されていますし。起業については、誰にでも勧められるものではありません。ですが、自分たちが世の中に提供できる価値があれば、どんどんチャレンジするといいと思います。ただし、楽しみも大きいけれど、リスクも大きいもの。リスクも合わせて楽しむという姿勢が求められます。

    経済産業省では2020年12月より「女性起業家等支援(わたしの起業応援団)」という情報交換・連携ネットワークが立ち上がり、女性の起業家支援も整ってきています。働きがいを求めて、夫とともに起業するという選択を取るママはますます増えていきそうです。

    ※写真はイメージです。

    屋代さん:働いていると、子どもを預けているという罪悪感を感じることもあるかもしれません。でも、働くことは社会貢献。子どもを育てるのも未来の社会のため。だから、自分のやっていることに自信を持って、仕事も子育てもどっちも大事にしてもらいたいですね。

    子育ても、仕事も、人生の大きな部分を占めるもの。成功ばかりを得ることはできませんが、気持ちの持ち方次第で「楽しく生きる」という充実感は得られるもの。失敗も糧になる、そんな姿勢で生きていけば、夫婦での起業もひとつの選択肢としてありなのかもしれませんね。

    <プロフィール>

    屋代浩子さん

    フォルシア株式会社 代表取締役社長 最高経営責任者(CEO)。
    1988年慶應義塾大学経済学部を卒業後、野村證券に入社。デリバティブ開発に携わることでより深い金融工学の知識の必要性を感じ、マサチューセッツ工科大学に留学。MBA取得。1992年にゴールドマン・サックス証券に入社。2001年、夫(COOの屋代哲郎氏)とともに、高度な検索テクノロジーを基にしたシステム開発・サービス提供を行ない、企業のDX推進を支援する。

    執筆/中山美里

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