「夢を育てよ」#6 大久保嘉人さんが信じる「1%の可能性」 vol.2
前回の記事では、ご両親の応援を受けてプロサッカー選手への道をいかに切り開いてきたかを伺いました。今回は、輝かしいキャリアに甘んじることなく今も挑戦を続ける理由や、大久保さんならではの子育て論、そしてお金の考え方を伺います。
目次
【前回はこちら】
「夢を育てよ」#6 大久保嘉人さんが信じる「1%の可能性」 vol.1
自分を常にアップデートしたい
国内外のさまざまなチームに移籍し、幅広い経験があるところも出色といえる大久保さん。チャレンジを続ける理由をこういいます。
「正直、ずっと同じ場所で慣れていくのがあまり得意じゃないのかもしれません。ある場所で絶対注目してもらえるとわかっていると、楽しくないんですよね。またゼロからスタートしてみたいという気持ちがむくむくと湧いてきて、求められたら『よし、行こう!』とどこへでも行きます。移籍する際は、不安よりもワクワク感がものすごく大きいです。チームによってカラーが全然違うし、自分が不足している面が新たに見えてきて、また努力しようと思う。自分のアップデートにつながっていくのが本当に面白くて」
自ら新しい場所に飛び込み、また一から人間関係を築き直し、自分の幅を広げてアップデートしていく。そのひたむきな姿勢は、サッカー選手だけでなく、どんな職業でも楽しみながら結果を出していくために必要なことかもしれません。そして、大久保さんは自身のセカンドキャリアについても、サッカー界に限らず考えたいといいます。
「30歳を過ぎるとそろそろ世代交代で、若い選手が出るシーンも多いので、どの選手も第二の人生を考えるのではないでしょうか。サッカー選手は、平日は意外と自由な時間があるので、その時間を使ってセカンドキャリアを考えなきゃなと最近特に思うようになりました。サッカーは小さいときから三十数年間もの間やってきたわけですから、あえて違うことにチャレンジしてみたい気持ちもあります」
新しい場所に飛び込み、新しく出会う人々と切磋琢磨していくことは、今ではまったく問題ないように見えますが、小さい頃は人見知りで自分からは話すことができなかったそう。プロのサッカー選手になって、移籍を重ねたことで経験値が上がってきたといいます。
1%の可能性も信じられる
現在は結婚して、15歳、11歳、9歳、4歳(2021年2月時点)の、4人の男の子に囲まれる日々。ご自身が育ってきた家庭について、新たに思うところはあるのでしょうか。
「中1のときに実家を離れたので、親に対しては、まだなんだか照れくさくて、話しづらいという感じがあります。もちろん、今は自分も家族ができて、がんばって子どもを育てていく大変さを少しはわかるようになりましたよ。子どもの習い事の送り迎えなど、なかなか手間がかかるじゃないですか。特に僕は田舎に住んでいたので、何時間もかけて試合会場に連れていってもらって、お金の工面も含めて、ものすごく支えてもらったんだなと実感しています」
男子4人、みんなサッカーをしているそうですが、性格の違いによって親子の接し方を変えているのだそう。
「次男は『自分が負ける』と思うと挑戦しないんです。そんな弱気な部分があるのは、小さい頃の僕にちょっと似ているかもしれません。だから、昔僕が父親から言われたように『お前はプロになれる』と励ましています。自信がないことは避けていた自分でも、父親に『できる』と言われ続けて結果を出して自信がつき、今はどこに行ってもやれるという気持ちに変わりました。だからやっぱり自信をつけることが大切ですよ。
三男も僕に似ていて負けず嫌いな面があって、試合で負けたら泣くんです。だから『もっといけ!やれ!』と強めに背中を押すようにしています。ちなみに長男は『大久保の子ども』と見られるのが嫌だったみたいで、サッカースクールには行っていたものの、本格的にサッカーを始めたのは最近です。高校からがんばってサッカー選手になった人はいますから、『高校からでは無理だよ』なんて決して思いません。僕自身が1%の可能性を親と信じてきたから」
勉強とお金は妻に任せて
ちなみにお子さんの勉強に関しては、『絶対に勉強はした方がいい』という奥様に任せつつも、経済面で大久保さんなりのサポートの形がありました。
「僕は妻から隠れたところで『勉強しなくていいよ。俺も勉強しないでサッカー選手になれたから……』と、子どもにこっそり言っています(笑)。そういえば、気持ちがちょっと楽になるかなと思うんです。でも妻は『あなたはプロになれたけど、普通の子は違うから勉強しないと将来が大変』といって、それもわかります。
ただ、僕自身は子どもの頃に、サッカー選手になれなかったケースを考えたことがありませんでした。親が、僕がサッカー選手になることに賭けていたように、僕も、どこか自分自身に賭けていたのかもしれません。勉強をしていなくて、サッカー以外では働くことができませんから。『絶対にプロになる』という強い気持ちで、あえて他の道を見ないようにする。そうやって自分を追い込んだことも、結果的にはよかったと感じています」
家計に関しては、奥様が大久保さんのセカンドキャリアも見据え、お金の管理を計画的にされているのだそう。
「妻がしっかりした人なので、そのあたりは任せていますね。今からちゃんと貯めておかないと、子どもたちの将来に響いてしまったら困りますし。だから資産運用もしています。お金持ちにはならなくていいので、4人の子どもたちの選択肢を狭めないように、貯蓄などをしっかりして、準備しておいてあげたいと思っています。
あと、僕自身は親がしてくれたのと同じようにいいスパイクを買ってあげたりします。スパイク一つで子どもってテンションが大きく変わるから。妻からは『いいシューズばっかり買って手入れもしないし』と怒られますけど(笑)。でも子どもたちもお互いにどんなシューズを履いているかを見ていて、それがモチベーションにつながるから、そこは惜しまなくていいのかなと思っています」
サッカー選手は苦しいけど楽しい
プロのサッカー選手という夢を叶え、数々の実績を積み、息の長い選手として活躍しつづける今、どんな夢を持っているのでしょうか。
「できるだけ長く現役を続けたいという思いがありますね。子どもたちもプロになってくれたらうれしいかな。サッカー選手は本当に楽しいですから。遠征で海外にも行けるし、見たことがない街にも行けて、幅広い友だちができる。そうやって楽しいことがたくさんある。でも苦しいことの方が多いかな。でも苦しいことも、試合で挽回できるチャンスがあって、挽回できたらうれしさを味わえて成長できる。だから、サッカー選手はやめられません。この経験をぜひ子どもたちにも味わってほしいですね。苦しい局面が必ずあると思うので『こうしたらいいんじゃないかな』って、自分の経験からアドバイスもできると思いますし」
ひたむきで心身ともに激しいプレーが持ち味の大久保さん。きっとたくさんの苦しいことを乗り越え、メンタルを鍛えてこられたのでしょう。でも「本当は昔からメンタルはそんなに強くなくて……」と意外な言葉が。
「だからこそ、強く見せようとしているところはありますね。例えばうまくいかないときに『自分はダメです』と記者の方に伝えると、そのまま記事として載ることになります。そうすると本当にダメになってしまうんです。あえて強気の姿勢で『いや、次は点を取りますよ』と伝えると、言ったからにはやらなきゃと気合が入る。周りにも『俺にパスくれよ』と言ってボールを集めてもらうと、本当に点を取れるんです。そうすれば『有言実行』と書かれて自信につながります。でも、うまくいかなければブーイングですし、またゼロからのスタートだと自分を奮い立たせる。その繰り返しですね。プロですからいろいろ言われるのは当然ですし、プレッシャーは半端ではないですけど、それもまたちょっと楽しいです」
うまくいけば最高に気持ちよく、うまくいかなければ地獄。でも、地獄を味わっても顔を上げて、挽回できる次のチャンスを活かしていく。打たれてもまた立ち上がれるような人に、自分自身の子どももなってほしい……という親は多いでしょう。
「僕の子どもたちにもそうなってほしいですね。でも、血はつながっているけれど、そうなれるかどうか……。今の子どもって、ネガティブなことを親がいうと、そのまま落ちていくような子が多いと思うんです。子どもの性格にもよりますが、僕自身が子どもの頃に親に言ってもらったように『プロになれるよ』というふうに、ポジティブな言葉を伝えるようにしています。子どもにとってはプレッシャーに感じることもあるかもしれませんが、それよりも、身近な親が信じて応援してあげることで子どもは自信を持てるし、どこかで変わってくるんじゃないかな。自分も父親として試行錯誤しながら、成長していく子どもたちを応援していきたいです」
友だちのような親子でいたい
お子さんが生まれる前から、「友だちのような距離感の父親」になりたいと思っていたという大久保さん。まさに現在、友だちのような親子関係のようです。
「僕自身、父親に対して、ちょっと怖かったり、恥ずかしかったりするイメージがあったんです。父親は2014年に亡くなりましたが、『ありがとう』とちゃんと伝えたこともなくて、もっとたくさん話をしたかったなと思います。いつか自分に子どもが生まれたら、友だちのようになんでも話せる仲になりたいなと思っていたのですが、まさに今はそうですね。『ごはん行くぞ!』ではなくて、『ごはん一緒に行こうよ』という具合(笑)。妻からは『もっと親としての威厳を持ってほしい』と言われますし、僕自身も『俺、子どもにナメられていない?』と思うときもありますけど、距離が近いからこそ話せることがあるし、子どもがダメなときはきちんと叱っているので、これでいい。子どもにとってみれば、怒りすぎない親っていうのも結構いいと思うんですよね」
たった1%だと思われたプロサッカー選手への道を、「絶対になれる」というポジティブな言葉で励まし、プロの夢を叶える道を後押ししつづけてくれたご両親。そして、今もその言葉に背中を押されている思いから、自身のお子さんにも「できるよ」と励まし、そして友だちのように仲のいい親子関係をつくっている大久保さん。さまざまな困難があっても立ち向かい、信念を貫きとおしながら、サッカーも子育ても心から楽しんでいる姿から、先行き不透明な今の時代を生き抜くヒントをたくさんいただけました。
これまでの夢や目標
プロサッカー選手。子どもが覚えていられるくらいまで、サッカー選手を続けること。
夢を実現するためにやってきたこと
たとえ1%の可能性でも賭けてみる。宣言してチャレンジする。
大切な時間やお金の使い方
大金持ちにならなくてもいいので、子どもたちの選択肢を増やせるように貯蓄などで準備しておきたい。
子どもの可能性を伸ばすために大切にしていること
自信をつけてほしいので、「できるよ」といったポジティブな言葉をかける。なんでも話し合えるような、友だちのような親子関係でいる。
これからの夢や目標
現役をできるだけ長く続けたい。子どもたちを楽しませたい。
読者の方へのメッセージ
自分自身がそうだったのですが「できるよ」というポジティブな声をかけてもらうと、自信になり、成長につながると思います。ぜひポジティブな姿勢で子どもと接していきたいですよね。
●大久保嘉人さんプロフィール
1982年6月9日生まれ。福岡県出身。小3から本格的にサッカーを始め、中学校は長崎県の国見中学校へ越境入学。国見高等学校の3年時には、インターハイ、国民体育大会、全国高校サッカー選手権大会の高校3冠を達成。2001年にセレッソ大阪でプロデビュー。その後、スペインのマジョルカ、ヴィッセル神戸、ドイツのヴォルフスブルク、川崎フロンターレ、FC東京、ジュビロ磐田、東京ヴェルディなどを経て、2021年に15年ぶりとなるセレッソ大阪への移籍が発表されて話題に。2013年~2015年にJリーグ史上初となる3年連続得点王に輝く。日本代表としても2度のワールドカップ出場経験がある。
取材・執筆/西山美紀 写真/山田英博
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