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働く場所の新常識#2 アドレスホッパーichさんに聞く、旅をしながら働く生き方


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    アドレスホッピングという言葉をご存じでしょうか?特定の住居を持たずに、さまざまな土地を移動しながら生活をすることや、そのような生き方のことを指します。アドレスホッピングをする人のことをアドレスホッパーと言いますが、滞在地が短期間で変わるライフスタイルを送るとなると、当然、仕事の仕方もそれにあわせる必要があります。今回は、2016年からアドレスホッパーとして生活しているフリーランスライター・編集者のich(いち)さんに、仕事のことから暮らしのことまで、そのライフスタイルのお話を伺いました。

    “家を捨てる”決断をした理由ときっかけ

    働き方改革が急速に進んでいる昨今。働く「場所」との付き合い方はますます多様化しています。

    連載第1回でお伝えしたリモートワークやワーケーションが“仕事”に着目しているのに対し、今回取り上げるアドレスホッピングは、“生き方そのもの”に付けられたネーミング。このライフスタイルを実践している人は世界的にも増えつつあり、現在では、定額で世界中の拠点に住み放題・泊まり放題を掲げるサービスも出てきています。

    とはいえ、一般的にはまだまだ「特定の住居で暮らすのが当たり前」という考え方が多い社会の中で、一歩踏み出すのには勇気がいるもの。ichさんは一体どのようなきっかけでアドレスホッパーになったのでしょうか。

    「前職であるアパレル販売員を辞めてフリーランスになったのを機に、賃貸で借りていた部屋を解約し、さまざまな土地を旅しながら回る生活を始めました。当時住んでいた大阪で毎月の家賃を払い続けるよりも、格安の宿泊先などを利用して暮らしていく方が安いんじゃないかと思ったんです。そうすれば、出費も少ない上にいろんな場所に行けて楽しいだろうから、やってみようかなと。意外に思われますが、特に不安はありませんでしたね」

    ichさんの場合、旅行メディアでの取材・執筆が主な仕事であるため、滞在先に行くことそのものが業務の一環でもありました。

    また、NPO法人や地方自治体などが行なうブロガー・イン・レジデンス(個人ブロガーに滞在してもらい、地域の魅力を伝えてもらう取組み)やお試し移住といった制度もすでに整っていました。

    仕事と制度を上手に組合わせれば多拠点生活ができそうだという明るい未来が見えたことで、“家を捨てる”決断に踏み切れたようです。とはいえ、当時はまだ「アドレスホッピング」という言葉もありませんでした。不便や不都合はなかったのでしょうか。

    1泊1,000円以下!?アドレスホッパーの生活

    定住をやめたばかりの頃は、「家を持たないってどういうこと?」と驚かれたり、「ホームレスや家出と何が違うの?」とマイナスなイメージを持たれたりすることも多かったというichさん。一体、どんなところに泊まり、どんな風に仕事をしているのでしょうか。

    「宿泊費が安いドミトリーやゲストハウスを探して滞在しています。高くて3,000円程度、安いと1,000円以下、1週間では6000円程度でしょうか。特に今は、GoToトラベルキャンペーンを利用できることもあり、さらに安価で泊まれます」

    昼間はコワーキングスペースやカフェで仕事をし、夜になったら宿に行き睡眠をとるのが日々の生活。仕事する場所については、Wi-Fi環境が整っていることだけが必須条件とのことです。

    「移動続きなので、荷物は機内持ち込みできるサイズのキャリーバッグとリュックサックのみ。そこに必要なもの全てを入れています。マストアイテムは、パソコン、充電器、枕、薄手のダウン。旅行者用の収納グッズやタオルなど便利なアイテムを使いながら、持ち物は最小限にしています」

    また、そのとき使用しないものは収納サービスに預ける、季節によって買い換える必要のある服はレンタルサービスも利用するなど、買うもの・持つものは厳選しているそうです。

    「アドレスホッパーに向いているサービスが増えてきて、最近は以前より旅をしやすくなりましたね」

    断捨離がブームになるなど、持たない暮らしが注目を浴びていることもあり、アドレスホッピングはますますやりやすくなっているようです。

    メリットはデメリットを大きく上回る!?どんどん広がる人とのつながり

    多拠点暮らしを続けてきたichさんですが、この生活を続けることによってデメリットを感じることはなかったのでしょうか。

    「契約書を交わす際など郵便物の受け取りに困る、定期的にオフィスに通う必要のある仕事は受けられないなど、もちろんデメリットはあります」

    他にも、体調を崩した際に同じ病院に継続してかかりづらい、フォーマルな服を持っていないため冠婚葬祭時に困る、雑貨や家具を持てないなど生活上の不便も少なからずあります。けれども、ichさんは「メリットの方が多い」と断言します。

    「住みたいところにパッと住める、いろんな地域を知ることができるなどメリットはいろいろありますが、やはり1番は多くの人に出会えることですね」

    アドレスホッパーをしている人は、フリーランスのライターやプログラマー、ブロガー、クリエイター、起業家などが多く、会社員だったときには身の回りにいなかった層との出会いが多いとのこと。新しい出会いから受ける刺激により、情報をキャッチする力が上がったり、IT系に詳しくなったり、さらには出会った人と一緒に仕事をすることになったりと、キャリアにプラスになった点が多くあったそう。

    「シェアハウス、ホテル業に詳しくなったため、経営者や運営の方にアドバイスを求められることも増えました。

    例えば、コロナの流行が広まった今年3月頃から、しばらくは拠点の移動ができなくなってしまったんですよね。当時、千葉県のいすみ市に滞在していたのですが、そこでこれまでの経験を買っていただき、『一緒にコワーキングスペースの運営を手伝って』という一声で、副店長という新しい経験をさせていただけました。広報やPRの活動など、これまで挑戦したことのない分野でも、出会った人たちに誘ってもらう中で少しずつチャレンジできました」

    各地を回り、その土地での出会いによって仕事も広がる。そんな風に暮らしてきたichさん。働き方改革や多様性を認める動きの中で、周りからの目も変わってきたと話します。

    「アドレスホッパーをしている私に、社会的にポジションができたと感じています。家がないと言っても、変な人だと思われなくなってきましたね(笑)。それどころか、『憧れる』『かっこいい』と言っていただけたり、今回のように取材のご依頼をいただけたりすることも増えました。

    また、リモートワークの普及が進み、アドレスホッパーにも『完全リモートワークという形で正社員になる』という選択肢ができたことも大きな変化です。これからますますアドレスホッパー人口が増えそうですよね」

    新しい生き方をしながら、仕事の幅も拡充してきたichさんは、「やってみないと分からない。やってみてから決める。興味があったらまずはやってみる」というポリシーを元にさまざまな挑戦をしてきました。

    将来は、これまでの経験を形にして、商品やサービスを発信したいと話しますが、プライベートについては、どのように考えているのでしょう。

    家族ができたらどうする?パートナーや子どもとの暮らし方

    「もともとは、結婚したらやめようと考えていたんですが、最近は結婚しても多拠点を移動する生活を続けたいと思うようになりました。ただ、子育てが始まったら子どもを連れ歩くのは難しいでしょうね。

    そのときは、シェアハウスで暮らしたいです。自分たちがどこかに行かなくても、いろいろな人と出会い、刺激し合ったり助け合ったりできる環境で生きていきたいんです」

    現在日本では、家族で暮らすことができるシェアハウスの数は少ないものの、徐々に新設されており、ichさんも滞在したことがあるとのこと。

    ▲ichさんが滞在した、家族で暮らせるシェアハウス『絆家シェアハウス #HASH196 柏』での様子

    「本当にさまざまな人がいましたね。私のようなフリーランスの独身者はもちろん、自営業の一家や、企業の正社員同士の夫婦など、働き方もバラバラでした。共通点と言えば、新しいことを『おもしろいね』と柔軟に受入れるタイプの方が多かったことくらいでしょうか。

    子どももたくさんいて、私が仕事をしているすぐ横で小学生が宿題をしているなんてことも日常茶飯事でした。

    家族で住んでいる方の中には、奥さんがシェアハウス暮らしに乗り気ではなかったという方もいました。でも、暮らしていくうちにシェアハウスの良さに気づき、夫婦が和解していったんですよね。そんな夫婦の問題解決の過程も見られ、いい経験になりました」

    中でも、印象に残っているエピソードを教えてくれました。

    「一緒に住んでいたある夫婦が結婚記念日を迎えた際、日頃から懇意にさせていただいていたこともあり、2人が記念日デートに行く間のベビーシッターを頼まれました。1歳のお子さんの寝かしつけを引受けたのですが、夫婦が帰って来たとき、お土産にとケーキをいただいたんです。手助けが必要な誰かの役に立てて、感謝の気持ちがもらえる。幸せな体験でした。シェアハウスって、常に頼れる人たちがいるので、子どもがいるということが、何かを諦める理由にならないんですよね」

    住んでいる独身者も、「子どものいる家族と触れ合いたい」という気持ちの人が多いので、「家事する間、あやそうか?」などと助け合う雰囲気があるそうです。

    また、そのシェアハウスには保育士や医療関係者の人も住んでいたため、ちょっとした不調があったときにも安心の環境があったとのことでした。

    そんな体験もしたichさんに、子育てに奮闘する方へのメッセージをいただきました。

    「私は出産の経験がないので、周りの方を見ていて感じることになるのですが、子育て中って、自分のことを後回しにしがちですよね。

    もちろん、子どもを大切にしたいというのはよく分かりますし、その気持ちは本当に素晴らしいことだと思います。でも、ときには自分の優先順位を上げてもいいんじゃないかなと思うんです。自分の人生は自分が主人公。自分の気持ちややりたいことを優先したときに、『私はダメな親だ』と自分を責めないでほしいですね」

    そして、もし、今の生活に行き詰まったら、環境を変えることを考えるのがおすすめだとichさんは言います。

    「何かに悩んでいるときって、環境を変えると案外解決できることって少なくありません。例えば、家族型シェアハウスの内覧に行くとか。本当におすすめですよ!実際に住むかどうかは別として、『いろんな人がいるんだ』『こんな暮らしもあるんだ』と発見がたくさんあるはず。それだけでも少し楽になれる気がします」

    今すぐ行動できなくても、可能性が広がるだけで、行き詰まった感じから抜け出せるもの。仕事、家事、育児……のルーティンでは見つけられない選択肢を知ることで、気持ちや考え方に変化があるかもしれませんね。

    人生100年時代、何かを始めるときに、何歳であっても遅くはありません。

    <プロフィール>
    ichさん

    “アドレスホッパー”として、フリーランスでライター、編集業務、シェアハウスのPR業務などを請け負う。自由な生き方に憧れ、定住することなく転々と旅をしながら暮らしている。キャリーひとつで訪れる拠点は国内だけでなく、海外も含む。

    取材・執筆/中山美里

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