キャリア

ずっと仕事だけの人生?迷う43歳女性の憂うつ #4人の生き方、働き方vol.4


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    バリバリ働く周囲を見て焦ったり、仕事と家庭の両立で戸惑ったりと、とかく悩みが多い女性のキャリア。

    計4回にわたってお届けするこの連載では、女性が抱えるキャリアの悩みを、短編小説風にご紹介。その後、実際のキャリアコンサルタントがその悩みについての考え方や解決策をアドバイスしていくという、小説とリアルがコラボした企画になっています。

    小説には、年齢や職業、家族構成の違う4人の女性主人公が登場。ぜひ、ご自身やまわりの方々と重ね合わせて読んでみてくださいね。

    周囲からは「結婚より仕事を選んだ人」と思われているけれど……

    最終回となる連載第4回目の主人公は、外資系保険会社で営業マネージャーを務める小春、43歳。みんなから頼りにされている独身のバリキャリですが、いい人がいれば結婚したいと思っています。しかし、将来が思うように見通せないためマネープランが立てられず、不安が募っていました。

    独身バリキャリが抱える不安の理由は?

    「マネージャー、お誕生日おめでとうございます!」

    部下たちの声がオフィスに響きわたる。外資系の保険会社とはいえ、小春が在籍する営業所は外国人の上司がいるわけでもなく、雰囲気は日本企業とそう変わらない。だが、社員の誕生日だけは、みんなで費用を出し合ったケーキで祝うことが慣習化している。

    だが、ここ数年、小春はこのほほえましい風習を疎ましく思うようになっていた。年齢を重ねることを恥ずかしく思っているわけではないが、わざわざひとつ年を取ったことをみんなに知らしめる必要はないのではないか。

    なんだか最近は、これまで気にもしてこなかったことに、いちいち引っ掛かりを覚えてしまう。この前も、年下の友人と衝突してしまった。彼女には同業者の夫がいて、仕事もうまくいっている。海外赴任の話があったのに、子どもができたかもしれないと悩んでいたが、素直に彼女の気持ちに寄り添うことができなかった。すべてが手に入らないとイヤだと、まるで駄々をこねているように感じてしまったのだ。

    かといって、小春は別に自分が何かを諦めてきたとは思っていない。周りは小春が結婚より仕事を選んだと思っているようだが、本人としてはそんなつもりはまったくない。恋愛もそれなりに楽しんできた。ただ、結婚の話が出そうになるとなぜか、相手が転勤になったり、小春が異動や昇進で忙しくなったり……タイミングが合わなかっただけなのだ。

    仕事だって最初からバリキャリを目指していたわけではない。大学を卒業するときはやりたいことも定まっていなかった。就職氷河期だったこともあり数々の企業を受けたなか、どうにか一般職として信用金庫に就職が決まった。けれど、おおざっぱな性格の小春は伝票や手形、小切手の入力・チェックなどの事務作業が苦手だった。それに比べて窓口でのお客様対応は楽しく、投資信託や保険商品の販売成績もよかった。もしかしたらガツガツ数字を追いかける営業のほうが向いているかもしれないと、今の外資系保険会社に転職して10年になる。

    中学から大学までバスケットボールに打ち込んだ体育会系気質もあって、好不調の波はありながらも、ただただ目の前の数字をクリアしようと全力で走り続けていたら、こうなっていた、という感じだ。転職した当初は一営業担当者としてスタートしたが、成績はそこそこで決して目立つ存在ではなかった。しかし、他の人のことには我関せずという営業が多いなか、同僚や後輩にマメに声をかけ、互いにサポートしあえるチームを作ろうとしていた小春の仕事ぶりを当時の上司が高く評価してくれ、管理職としての道が拓けていった。思い返せば、部活でもずっとベンチ入りできるかどうかの当落線上にいて大した選手ではなかったが、後輩の面倒を見るのが好きだった。ケガをした後輩のトレーニングに付き合い、その後輩が復帰戦で活躍したときほどうれしかったことはない。

    結局、今の仕事でも部活と同じ道を歩んでいる。ただ、どんなに心を砕いて接していても、部下たちは案外あっさり辞めてしまうし、相手にとって耳が痛いことも言わなければならない立場上、感謝されることもそう多くない。定年まで勤めたとして、自分には何が残るのだろうか。お金もそれなりに貯めてはいるが、もし結婚相手が現れたらと思うと、うかつに家も買えず、お金の使い道も定まらない。今後は親の介護も考えなくてはいけないし。自分にとって何が一番大事なのかの軸が定まらず、まったく先が読めないのがもどかしい。

    コミュニケーションが苦手な部下をどう導く?

    「最近、旅行はどうだ?面白いところに行った?」

    所長の山上が、紙皿に取り分けたケーキを差し出しながら、小春の趣味である旅行について話しかけてくる。山上は銀行からの転職組で小春の5歳上の48歳。この営業所を率いるトップで、小春はナンバー2にあたる。予算管理に長けた山上は、メンバーの育成については小春に一任してくれている。お互い得意分野を生かせるいいコンビだという小春と同じ感想を、おそらく山上も抱いてくれているはずだ。

    ひとしきり、今度行く予定の温泉の話をしたあと、山上が声をひそめて訊ねてきた。

    「ところで……斉藤はどうだ。相変わらずか?」本題はどうやらこちらの方らしい。斉藤は不動産会社からの転職組で入社3年目、30歳の中堅社員だ。斉藤の姿を探すと、人気ドラマの話で盛り上がるメンバーたちの輪に加わることなく、黙々とケーキを平らげている。3カ月前にチームリーダーに昇格したばかりだが、異動してきた佐伯という若手女子社員の成績がふるわないなか、いま一つ指導力を発揮できていない。自分からコミュニケーションをとるのが苦手なこともあり、チーム内の人間関係もぎくしゃくしている。

    一介の営業から管理職になるときは、誰でも苦労するものだ。それだけに、斉藤の様子には特に目を配り、本来なら山上に言われる前に話を聞く機会を設けなければいけなかった。これではマネージャー失格だ。最近は、自分の将来が見えなくなっているせいで、いま一つ仕事に集中できていなかった。しっかり気合いを入れ直そう。

    完璧さを手放して、自分らしく

    「異動してきた佐伯さん、もう慣れたみたい?」

    翌日、小春は面談室で斉藤と向かい合っていた。斉藤は目を伏せ、居心地悪そうにしている。

    「……とにかく営業に同行してアドバイスしてるんですが、どうも響いてないようで」

    詳しく話を聞いてみると、どうやらアドバイスしているとはいっても、彼女が何を悩んでいるのか、何が原因なのかをはっきりつかんではいないらしい。

    「斉藤くん、最近、佐伯さんとはよく話してるの?」

    「……僕はあんまり自分から話しかけるのが得意じゃなくて」

    「じゃあ、佐伯さんの様子はどう?元気そうとか、口数が少なくなってるとか、変化はある?」

    「様子って言われても……いつもと同じように見えますけど」

    「私は、メンバーのちょっとした変化を見逃さないように心がけてるよ。最近、私のこと避けてるなとか、昨日より表情がやわらかいなとか、声の感じが暗いなとか。特に、うまくいっていないメンバーの様子はよく見ないといけないよね」

    自分のことを棚にあげているなと思いつつ、小春は続けた。

    「観察していると、声をかけたほうがいいタイミングが見えてくるんだよね。大切なのは、ここぞというときに、すかさず声をかけること。リーダーから歩み寄っていかないと、メンバーも心を開いてくれないから」

    「マネージャーってそんなことまで考えてマネジメントしてるんですね……」

    「上に立つ人って、あくまで見守り、支えていくのが仕事だから。相手に心を開いてもらうためにも、メンバーの変化やモチベーションをしっかり観察して、こちらから働きかけていかないと」

    「頑張ってはみますが……自分にマネージャーみたいなことができるとは到底思えません」

    「だったら、目配りがきくメンバーに観察は任せて、変化があったら教えてもらう手もあるよ。人には得意不得意があるんだから、自分らしいマネジメントのやり方を探していけば大丈夫」

    それならできそうだと、斉藤の表情がパッと明るくなった。よくよく話を聞くと、去年子どもが生まれてから、共働きということもあって仕事と家庭のバランスがうまくとれなくなっていたという。そんな中でリーダーになり、すべて完璧にこなさねばと気負っていたのだ。

    これまでの面談では、どんなに大変でも「大丈夫です」と虚勢を張っていたそうだが、周りを頼っていいと聞かされて肩の力が抜けたらしい。先ほどまでとは別人のようないい顔をしていて、小春までうれしくなってくる。

    確かにこのまま仕事を定年まで続けても、何が残るかは正直よくわからない。でも、部下に感謝されようがされまいが、やっぱり小春は部下のこうした顔が見られるこの仕事が好きなのだ。

    もしかすると、年齢や既婚・独身に関係なく、人生で何を大事にすべきかという答えは、簡単に見つからないのが当たり前なのかもしれない。仕事や家庭、住居、お金はどれも大事だし、自分の思い通りに事が運ばないことも多い。だからこそ、何を優先すべきかという悩みも深くなる。結局、自分らしく生きる道を探しながら、試行錯誤していくしかないのだ。

    そういえば、斉藤の前職は不動産の営業だったはずだ。将来、もし結婚したらすぐに売却できそうな優良シングル向け物件でも教えてもらおうか。小春は久しぶりに晴れ晴れとした気持ちで、そんなことを考えていた。


    周りが憧れるバリキャリ、40代独身。将来をどう考えたらいい?

    アドバイスをくれたのは……
    キャリアコンサルタント 土屋美乃さん

    慶応義塾大学商学部卒業後、株式会社リクルートエージェント(現リクルートキャリア)に就職。人材紹介部門の法人営業として主にIT業界に対する採用支援、人材紹介を行なう。また、人事部で新卒採用担当として、新卒採用にまつわる企画・設計から業務全般を担当した。2009年にキャリアカウンセラーとして独立し、2年後には株式会社エスキャリアを設立。『自分らしいキャリア』の実現をテーマに、主にライフイベント期の女性に向けたキャリア支援を行なっている。

    40代独身の女性に多い悩みは、「キャリアに対する不安」と、「恋愛や結婚に対する迷い」です。その他にも自分自身の体力の衰えや出産のタイムリミット、親の介護など、悩みが多様化しやすい年代でもあります。

    今回は、小春のように「結婚するかどうかわからないもどかしさ」を抱えているなど、悩める40代独身女性へのアドバイスです。

    【アドバイス①】「持っているもの」に目が向く工夫を

    小春は小説のなかで、自分の年齢や友人の妊娠に関する話題が気になり、疎ましい気持ちになっていましたね。そういったことで心が乱される人にまず伝えたいのは、自分が「持っているもの」に目を向けて欲しいということです。小春のように部下を率いてマネジメントできるといったことはもちろん、丁寧な仕事ができる、打ち込める趣味がある、かわいいペットがいるなど、人それぞれの「持っているもの」があります。

    とは言え、自分と周囲の人を比べてしまい、「持っていないもの」に目が向くのは自然なことでもあります。人間の目は外側を向いていますから、物理的に、自分の内側よりも周囲の情報に気持ちが影響されやすいのです。「隣の芝生は青く見える」という現象は誰にでも起こり得ることですから、まずはそういうものだということを理解しましょう。その上で、意図的に「できていること、持っているもの」に目が向くようにする工夫が必要です。

    例えば、毎晩寝る前に「できなかったこと」ではなく、「できたこと」を思い出したり書き出したりする習慣をつけるのがおすすめです。

    【アドバイス②】優先順位で悩みすぎないで。身を任せてもいい

    小春は人生の「優先順位」がつけられないと悩んでいましたが、無理に決める必要はありません。

    キャリア構築においては有名な理論ですが、「プランドハプンスタンス理論」(キャリアの8割方は偶然の出会いやきっかけにより引き起こされる)という考え方があります。

    キャリアというと仕事に関することだけをイメージするかもしれませんが、結婚や出産もキャリアを形作る要素のひとつです。

    人生の優先順位がはっきりしていない場合は、生きていて自然に出会う人やできごとによる偶然に身を任せてみる手もあります。

    「こうあるべき」といった固定観念に囚われず、自分の関心が赴くままに活動領域をひろげ、自分の役割や肩書を限定せずに、面白そうと感じたところに参加しながら、人間関係もひろげていくことをおすすめします。その中で、結婚に至るようなパートナーが見つかるかもしれませんし、一生仲良くできる友人と出会えるかもしれません。あるいは、ひとりで夢中になれる趣味や仕事を見つけられる場合もあるでしょう。

    【アドバイス③】自分の中の多様性を受け入れよう

    キャリアを重ね、周りから「しっかりしている人」という目で見られていると、「仕事に身が入らない自分」を許せなくなりがちです。しかし、あまりに自分に厳しすぎると心身の健康を壊すこともあります。

    「インナーダイバーシティ」という言葉をご存知でしょうか。自分の中にも多様な価値観や要素があることを認めるという概念です。

    心理学者のリンビルによって構築された考え方にも「自己複雑性の理論」というものがあります。「自分を多面的に捉えている人は挫折に強い」という考え方です。

    自分を「仕事ができる人」とだけ捉えていれば、「仕事に身が入らない自分」に対して「自分らしくない」と責めてしまいがちです。ストイックなのは立派なことですが、「私もたまには、そういうときもあるよね」と考えられる人はメンタル面で強いのです。時にブレる自分を許せる強さも持ち合わせていたいですね。

    自分の中の多様性に気づき、受け入れることができれば、上手くいかないことがあっても自分を許すことができ、他人の多様性も認めることができるのではないでしょうか。

    【メッセージ】「こうあるべき」を決めないで、心にゆとりを

    どんな年代・属性の方にも言えることですが、“40代・独身だからこその魅力”があります。それを活かして、「40代だからこうあるべき」「女性だからこうあるべき」と決めつけずに、心にゆとりをもちましょう。現代はダイバーシティ(多様性)の時代。価値観や境遇は一人ひとり異なります。お互いがもつ個性を活かしあい新しい気づきを得ていくことが大事です。

    自分が持っていないものではなく、「自分の持ち物」をポジティブに把握しながら、自分の可能性を信じ、人生を豊かにしていきましょう。

    小説/伊藤彩子
    イラスト/小野塚綾子

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