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ママのスタイルは十人十色#3「不安と無力感で悩んだ末の起業。全ては飛ぶための助走だった」


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    「まるで社会と切り離されたみたい……」出産や育児のため、仕事から離れている女性は、そう感じてしまうことも少なくないのではないでしょうか。自分の存在に自信が持てなくなることもあるかもしれません。でも、そんな悩みや苦しみは、きっと未来の糧になるはず。“私色”でライフスタイルを染め上げているママたちに、仕事や私生活のことを伺うこの企画、今回は東京の神楽坂で着物スタジオを経営されている古味利依子(ふるみりえこ)さんです。

    「自分は何の役に立っているんだろう?」 自信をなくし、悩み苦しんだ日々

    江戸時代から栄える街、神楽坂。その坂の頂上辺りに古味利依子さんが営む『キモノスタジオ MIFURU(みふる)』はあります。着付け・ヘアメイクをして撮影できるだけでなく、畳紙(たとうし:畳んだ着物を包む収納用の和紙)に貼ることで、中にどんな着物が入っているかわかる整理用のラベルシールを制作するなど、新たな試みも行なっています。しかし、この仕事・この働き方に辿り着くまで、とても苦しかったと古味さんは話します。

    石川県の呉服屋で育ち、地元の大学を卒業後、上京して写真会社に就職。数年後、とにかくやりたいことをやってみようと、その会社を退職しさまざまなアルバイトを経験しました。その中でデザイナーである今のご主人と出会い、結婚。その後、ご主人が独立したタイミングで経理事務として手伝うようになりました。生活に不満はありませんでしたが、37歳で出産し、子育てに専念するようになると、古味さんに変化が起こります。

    「生まれ育った実家は誰もが顔見知りのような田舎。私は四姉妹である上、祖父母も同居している大家族でした。子どもは家族全員で育てるのが当たり前という環境。それもあって、東京で周りに頼れる人がいない中子育てをしなければならない状況に、不安を感じてしまったんです」

    そこで、子育て広場で知り合ったママたちに声をかけ、連絡先を交換して仲良くなっていきました。次第にその輪は大きくなり、約30人ものグループになったそうです。

    「SNSを使って情報交換をするなど、コミュニケーションを取り合ううちに子育てに対する不安は解消され、活動も充実していきました」

    やがて、子育て支援事業団体の代表の方から、子育て支援事業をやらないかと声をかけられます。母親を支援することで児童虐待を減らしたいという思いのあった古味さんは、その誘いに乗り、活動を始めることにしました。

    そこでは、参加者のママ一人ひとりが先生になり、これまでの経験や知識を他のママに教え、みんなで学び合うという勉強会を運営していたそうです。

    「驚いたのは、参加しているママたちがみんな素晴らしい人に思えて、輝いて見えたこと。高度なスキルを持っていたり、びっくりするようなキャリアを歩んでいたりして。その姿を見るうちに、自分はダメな人間じゃないかと落ち込んでしまったんです。活動自体は楽しかったのですが、同時に『自分って何の役に立っているんだろう?』などと悩みが生まれ、自分探しが始まってしまいました」

    また、同時に児童虐待問題にも関わっていましたが、実際虐待に近い現場を見聞きした時に、いろいろな感情が湧き上がってしまってとっさに動けず、無力感に苛まれてしまいます。

    「そのシーンが脳裏にこびりついてしまい、頭が混乱してしまって、寝られなくなりました。その経験から、児童虐待支援は自分には太刀打ちできない問題だと感じ、子育て支援から離れようと思いました」

    実母の他界で改めて気づいた、「着物が好き」という自分の思い

    その後、しばらくは主婦として家族と向き合う日々を送ります。ところが、再び転機になるできごとが起こります。それは実母の他界でした。

    「うちの実家は、老舗の呉服屋でした。葬儀や法要などで帰った時に、残された着物に囲まれていると昔のことが思い出されて、悲しみから救われました。同時に、着物が好きだということを改めて感じたんですよね」

    母が亡くなり、残された着物をどうするかも決まっていませんでした。

    「着物のことは好きだったのですが、私は着物のことを何も知らなかったんです。そこできちんと勉強しようと思い立ちました」

    着物の学校に通ったり、実家の呉服屋に残った着物を整理したりする中で、古味さんはあるニーズに気づきます。

    今の時代、1枚の着物を見た時に、どういうシーンで着るものなのか、季節はいつ頃着るものなのか、どんな帯と合わせるといいのか……わかる人は多くありません。そこで、「どんな着物が入っているのか」が一目でわかる整理用写真があったら、助かる人が多くいるのではないかと考えたのです。

    古味さんは、家で着物の写真を撮り、その布や柄について調べた情報を表にまとめたものを作り始めました。

    「すごく良いサービスを思いついたと、意気揚々と周りの着物関係者に話したのですが、あまり良いと言ってもらえず、とりあえず初めてみても全く売れませんでした。でも、自分では絶対にニーズがあると思ったし、何よりすごく楽しかったので、求めてもらえるものにしようと、試行錯誤を頑張ることができたと思います」

    細々とながらもサービスを展開する中で、「せっかくだから着物を着て写真を撮りたい」というニーズも現れ、それに応えるために記念写真の撮影や、コーディネートを提案するといったサービスも提供するようになっていきます。

    こうして、お客さんのニーズを取入れながらサービスの形を変えていくことで、なんとか事業は軌道に乗っていきました。

    仕事と子育ての両立の中では、ママ友に迷惑をかけてしまったことも

    これまでにない商品やサービスを提供し、ビジネスにしていくのはとても大変なこと。子どもを2人抱える中で、どのように両立してきたのでしょうか。

    「私が起業することになり、夫婦の中での家事の分担も変わりました」

    もともと、ご主人が独立するときには裏方として支えてきた古味さん。起業の大変さを理解してくれることもあり、ご主人は毎日の夕食作りを買い物から担当しているそう。

    「私は料理が好きではなく、夫は得意。家事の分担は適材適所でやっています。人が作ってくれたご飯はありがたいですね。美味しいね、といつも褒めちぎっています。

    私が起業するまでは、私が家庭担当で、夫が仕事担当と分担していましたが、当時は夫に対して『私だってこんなに頑張っていて大変なのに、どうしてわかってくれないの?』という気持ちを持っていました。でも、私も仕事をして家を守るという立場になって、改めて、働いて家族を養うことの重みがわかりましたし、夫を尊敬するようになりました」

    しかし、両立はやはり簡単ではありません。仕事が原因で、周りに迷惑をかけてしまったこともあったと言います。

    「小学生の長女が強豪の部活に入り、親同士で関わることも多くなりました。子どもの部活を親が交代で見守ることになっていたのですが、私に当番が回ってきたとき、私の事業が資金のことですごく大変な時だったんです。心身ともに限界で、『できません』と拒否してしまいました。他のご家庭だってすごく忙しい中、都合を調整してなんとかやってくれていたのに……。他の保護者の方、そして一生懸命やっている子どもに迷惑をかけてしまった。その時の周りとのやり取りを思い出すと、本当に胸が痛みます。自分が情けなくて、恥ずかしくて、悔しくて……」

    そのため古味さんは、子どもが小さいうちの起業は誰しもにおすすめできるものではないと言います。ですが、「自分の人生で、どうしても今これがやりたい」という強い気持ちを持つ時が、人にはあります。

    「そうなったら、やっぱり突き進むしかないですよね。

    もちろん私のように迷惑をかけてしまうのは良くないです。でも、周りの大人がもがきながらも一生懸命になっている姿は、きっと子どもにも届くと思っています」

    そんな風に思うようになったのは、祖母の影響もあったと言います。

    「私自身、呉服屋を切り盛りする祖母に憧れていたんですよね。祖母はいわゆる優しいおばあちゃんではなく、話したこともそれほど多くありません。でも、テキパキとお客さんの案内をして、素敵な着物をコーディネートして……そういう“かっこよく働く姿”が強烈に記憶に残っていて、その憧れが今の私に繋がっています。

    子育てにおいて何がベストなのか私にはわかりませんが、私が必死でやっている姿を子どもたちが見て、人生の大変さや楽しさを感じてほしいと思います」

    今、辛い状況でもがいていても、その経験はきっと将来に活かせるから大丈夫!

    子育て支援活動、知識が無い状況からの起業、事業がうまく行かない時期……非常にたくさんの経験をしてきた古味さん。苦しいこともたくさんあったからこそ、今はマイナスのこともポジティブに捉えられるようになったと話します。

    「子育て支援活動をしている時期、華やかなキャリアを歩んできた女性でも、仕事についてすごく悩んでいることが多いと知りました。

    私自身の場合も、『子育てしながら新しい事業を立ち上げるなんて、すごい!』なんて言っていただけることもありますが、全然うまく行かなくてどうしようもなくなった時は本当に辛くて。でも、それでも何とか状況を変えようと頑張ったから今があります。

    だから、『こんな最悪な状況でどうしよう?』と、今感じている方がいるなら、それは逆に良いことだと考えてほしいなと思います。高く飛ぶためには、助走が必要ですよね。その助走期間だと考えていくと良いのではないでしょうか」

    ママのスタイルは十人十色 古味利依子さんの色は紫

    「私は、真逆にある2つの考えを絶えず持っていようと思っています。なぜならあまり賢くないので、1つのことを考える時、同時に正反対の発想を持っていないと、問題にぶつかっても太刀打ちできないからです。動の赤と静の青、両方が混じり合った色である紫は、着物スタジオのテーマカラーにもなっています」

    世の中にはすごい人がたくさんいて、とてもじゃないけれどその人たちのようにできないと感じてきた古味さんは、「自分には自分のやり方があるはずだ」と信じて仕事をしているそうです。

    仕事も家事も子育ても、うまくいくことばかりではありません。でも、自分に合ったやり方を模索していくことで、少しずつでも、より幸せな方向に向かっていきたいですね。

    取材・執筆/中山 美里
    写真/フカヤマ ノリユキ

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