ママのスタイルは十人十色#2「起業してゆとりができた!80%の力で無理をしない働き方」
言わずもがな、出産は人生の大きな転機。子どもが産まれてからは、自分の行動のほぼ全てに関して、まずは“子どもをどうしよう?”という課題をクリアしてやっとスタート地点です。多くの人が、出産を期にそれまでとは異なる生活や働き方を探し求めるのではないでしょうか。“私色”でライフスタイルを染め上げているママたちに、仕事のこと、私生活のことをお聞きするこの企画。今回お話を聞いた鈴木美里佳さんは、ワーキングマザーになったことで人生が大きく変わりました。
目次
育休から復帰しようと思った矢先の失職……
ベビー&キッズシッターサービス会社の「mormor(モルモル)」の代表・鈴木美里佳さん。同社では、「働くママに笑顔を」をコンセプトとしています。「そういえば、忙しさのあまり笑顔が消えがちかも?」とドキッとした方もいるかもしれませんね。
鈴木さんがご結婚されたのは、新卒で就職をした22歳の時。その後24歳で出産しました。しかし、育児休暇を経て職場復帰するというタイミングで、予想外のことが起こったのです。
「私にはスキルもなく、まだ社内で成果を上げてもいない新人で、さらにリーマンショックが重なったこともあり、育休から復帰しようとした頃には復帰できるポジションがなくなってしまいました」
鈴木さんは退職せざるを得ず、「保育園も決まっていたのに復帰先がない!」という状況に。慌てて転職活動をします。
「転職先は不動産会社。営業職として採用されました。拾ってもらえた感謝がありましたので、限りある時間の中で一生懸命働きました」
子育てと仕事を両立する中では、仕事でどうしても帰りが遅くなってしまうときや、子どもが急に熱を出したときなど、子どもを保育園以外の誰かに預けなければならない状況も出てきます。
気軽に預けられる祖父母が近くにいれば頼れるかもしれませんが、鈴木さんの場合、ご両親のお住まいは遠方で簡単には頼れませんでした。
ワーキングマザーになって感じた“私のような人向け”ベビーシッターのニーズ
「近くに頼れる人がいなかったので、ベビーシッターをお願いしたいと思い、探してみたところ、当時あったのは富裕層向けのサービスがほとんど。サイトのトップに掲げてある入会金がびっくりするような金額だったりして……。そうでなくても、曜日や時間帯によって値段が異なったり、オプションが発生したりと料金体系が複雑で、結局いくらになるのかがわかりにくいこともしばしば。一つ一つ計算すれば良いと言えばそうですが、仕事と育児・家事で時間がない中、家計と照らし合わせて比較検討する気力はなかなか生まれませんでした」
もともと、高校生くらいの頃から「いつかは自分のお店などをやりたいな」と漠然とした独立志向があった鈴木さんは、「ベビーシッターサービスをやりたい」と思うようになっていきます。そこで、毎週土曜日の子どもの習い事の時間に事業計画を立て、夢を温めていきました。
「いずれ独立したいという気持ちはずっと持っていましたが、これといった明確なテーマはなかったんです。そんな中自分に子どもができて、すごくニーズを感じたのがベビーシッターでした」
約1年間の準備期間を経て、独立を決意した時、子どもはまだ2歳半。本当に手のかかる時期です。でも、だからこそ、この機会を逃してはならないと感じたそう。
「一番当事者意識のあるタイミングでやらないと意味がないと思ったんです。10年後なら子育ては落ち着いているかもしれないけれど、時代が変わっている可能性もあるし、ベビーシッターサービスに対するパッションがなくなっているかもしれない。やるなら、最もお客さま目線に立てる今しかないなと」
とはいえ、起業と子育ての両立なんて、それこそ困難だったのではないでしょうか?
「スタートした当時は、働いてくれるシッターさんもお客さまもいらっしゃらない状態。仕事はほとんどありませんでした。
もちろん収入を増やさなければいけないという気持ちはありましたが、事業計画の段階で初動は想定していましたし、初めの収入については夫とも話してお互い納得していたので、マイペースに進められました。
“起業”というと、バリキャリのデキる女性、というイメージをもたれることも少なくないのですが、私の場合そんなことは全然なくて(笑)。
自宅で開業したので、通勤時間がなくなりましたし仕事の合間に家事をすることもでき、自分の時間を調整しやすくなりました。会社員時代より格段にゆとりができたんです。
お客さまや従業員が増えた今でも、子どもの朝の送り出しができて、学校から帰ってきたらおかえりも言える働き方です」
このような働き方をしているのは、もちろん鈴木さんご自身のライフスタイルに合っているというのもありますが、他にも理由がありました。
スウェーデンの視察で感じた 子育てファミリーの理想の働き方
鈴木さんが営むベビーシッターサービス「mormor(モルモル)」。これは、スウェーデン語で「ママのママ(母方の祖母)」という意味。おばあちゃんのように気軽に安心して預けられる存在でありたいという思いと、スウェーデンのように働くママが暮らしやすい社会になって欲しいという思いが込められています。
「これまでに2度、スウェーデンに視察に行きました。スウェーデンは“お母さんに優しい”と言われる国の一つ。スウェーデンのライフスタイルや働き方はすごく理想的だと思いますし、私自身大きく影響を受けました」
スウェーデンでは、あえて“ワーキングマザー”と区別する必要がないほど、母親が働くことが当たり前になっているそう。加えて、父親が育休を取ったり、日常的に育児をしたりすることも当たり前。両親とも働いて、子どもを一緒に育てるというスタンスが一般的なのです。
「現地の保育施設を見学させてもらったのですが、0歳児保育や延長保育、休日保育、病児保育が一切ないんです。また、ベビーシッターサービスもほとんどニーズがありません。シッターを使うのは看護師さんのように夜のシフトがあったり、特別な希望で1年の育休を取らずに早期に仕事復帰したりといった特殊なケースのみだということでした。これって、どういうことだと思います?」
答えは、子どもが熱を出したので会社を休みたい、子どもが小さいうちは残業が難しい、といった、個人的な状況を優先して働くことができる環境が整っているということです。
「現地の人に働き方に関するお話を伺ったところ、独身でも、ホームパーティがある、休日前で実家に帰るなど、プライベートな理由で早上がりするケースも一般的だということでした。一方で、今の日本の方向性は、どんな人でもたくさん働けることを理想にして進んでいる気がするんです」
確かに、「業務に支障のないように早朝保育や延長保育の体制を整える」「休日出勤に対応できるように土日も開園」をアピールする保育施設は少なくなく、国の制度も保育施設に対し働き方の多様化に合わせたサービスを取入れることを後押ししています。でも、病気で心細い時、子どもが最も近くにいて欲しいのは、やっぱり親ではないでしょうか。長い保育時間は、子どもにとっても負担でしょう。
「私も会社員でしたから、子どもの体調が悪くても保育施設に預けざるを得ない状況はわかりますし、会社を休んだり早く帰ったりすることが憚られる気持ちも、すごくよくわかるんです。だからこそベビーシッターサービスを立ち上げた訳ですし。
でも、みんながバリバリ働くことを理想とする方向性に向かってしまうと、かえって、お父さん、お母さんをしんどくさせてしまうのではと心配です。
ママが笑顔でいられるように、ベビーシッターサービスを運営する者として精一杯協力したいし、お子さんのためにも、その時間はシッターが全力で子どもと向き合うポリシーでやっています。ただ、お子さんの体調が悪いときや、今日は一緒にいてあげたいと感じるときくらいは遠慮なく仕事を休める社会になってほしいです」
言葉を選びながら、鈴木さんは働き方や子育ての理想に対する思いを話してくれました。
ママのスタイルはいろいろあっていい だから、無理して頑張らなくていい
仕事と家庭を両立してきたこれまでの日々の中では、迷いや悩みを持つこともありました。
「ストレスが溜まっているな、行き詰まっているなというときは、悶々としている自分を認めてあげるようにしています。そういう時期なんだと、抗おうとせずに受け入れると、意外とそこから抜け出せる気がします」
このとき、鈴木さんが大事にしていることの一つに“キャパシティの100%を使い切らない”ということがあるそう。
「以前、事業のことで相談に乗ってくださった方が、『時間的にも精神的にも20%くらいの余白を残しておいたほうがいいよ』とアドバイスをくれたことがあったんです。何かトラブルが起きたり急なチャンスが舞い込んだりしても、残りの20%で対応できるからと。
もちろん、いつも100%で動いて、何かあったら120%で対応できる人はとてもかっこいいと思うのですが、私にはこのお話がすごくしっくりきて、それからは80%の力でやっていこうと思うようになりました」
だからこそ感じるのが、日本のお母さんは本当によく頑張っているということだと言います。
「これ以上頑張ることは何もないですよね。だから、無理してもっと頑張ろうと思わないでほしいなと思います」
ママのスタイルは十人十色 鈴木美里佳さんの色は「無色透明」
「生きていると、ままならないことがたくさんあります。思うようにならないことだらけの毎日って、何色にでも染まるしかないですよね。だから、何色であっても染まってやろうという気持ちで、仕事、育児、家事……をやってきました。だから、無色透明じゃないかな?」
18時になったら「はい、おしまい!」と業務を切り上げて長時間労働をしないことをポリシーにしている鈴木さん。社員もフルリモート体制で、自身の生活に負担の少ないスタイルで働いているとのこと。率先してマイペースな働き方を実現し、次世代の働くママが笑顔でいられる環境づくりに貢献していました。
ワークライフバランスを上手に保つのは、なかなか難しいことではありますが、自分らしく輝けるバランスを見つけていきたいですね。
取材・執筆/中山 美里
写真/フカヤマ ノリユキ
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