キャリア

「ブランク5年の私でも復職できる?」と葛藤する32歳女性の胸の内 #4人の生き方、働き方vol.2


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    バリバリ働く周囲を見て焦ったり、仕事と家庭の両立で戸惑ったりと、とかく悩みが多い女性のキャリア。

    計4回にわたってお届けするこの連載では、女性が抱えるキャリアの悩みを、短編小説風にご紹介。その後、実際のキャリアコンサルタントがその悩みについての考え方や解決策をアドバイスしていきます。

    小説には、年齢や職業、家族構成の違う4人の女性主人公が登場。ぜひ、ご自身やまわりの方々と重ね合わせて読んでみてくださいね。

    来年、子どもが小学生。もう一度働きたいけど……

    連載第2回目の主人公は、専業主婦の由紀、32歳。5年前までシステムエンジニアとしてバリバリ働いていましたが、結婚・妊娠を機に専業主婦に。教育費や自分の成長のためにも復職したいけれど、ブランクを気にして、一歩を踏み出せずにいます。

    恵まれた環境での子育て。でも、どこか満たされないのはなぜ?

    「……立候補する方、いらっしゃいませんか?」

    司会役のクラス役員の声が、静まり返る教室に響きわたる。3度目の呼びかけにも関わらず、手を挙げる人は誰もいない。幼稚園も年長クラスになると、役員をやってもいいという人は年少・年中で経験してしまっているし、お受験で忙しい人も多い。だから、役員3人のうち2人まではどうにかなっても、残りの1人がなかなか決まらないのだ。

    それも仕方ない、と由紀は思う。「事情があるからって、役員をやらないのはずるい」と不満を口にするママ友もいるけれど、由紀はそうは思わない。明らかに役員逃れをする人に腹が立たないわけではないが、実家の近くに住み、何かあればすぐ娘の彩佳を預けられる自分と、実家の援助なしで仕事や介護をしている人とでは、負担感が違うだろう。

    それに、人には向き不向きがある。人前で話すのが苦手な人や、パソコンができない人にとって、役員は重荷だ。でも、由紀の場合、そのあたりはまったく問題ない。

    実は去年も役員をやったのだが、ここでさらに数時間過ごすより、さっさと立候補してしまえば、帰って読みかけの本の続きが読める。

    要領のいい妹の美咲には「お人よしだね~。そんなに“いい人”したって意味ないのに」と鼻で笑われるだろう。心の中でため息をつきながら、由紀はゆっくりと手を挙げた。

    「去年もやったのに、ごめんね」と声をかけてくるママ友たちとの立ち話もそこそこに、彩佳を自転車に乗せて幼稚園を出る。信号待ちをしていると、バッグの中のスマホが震えた。実家の母からのLINEだった。

    「お父さんが釣りに行って、イサキが食べきれないほど釣れたの。取りに来ない?お昼まだなら、おそばもあるよ」

    スーパーでお弁当でも買って帰ろうと思っていたので、ありがたかった。

    実家に着くと、彩佳はピンポンも鳴らさず「おばあちゃーん」と家の中に飛び込んでいく。

    娘や妹は成長していくのに、自分は立ち止まったまま

    初めての孫ということもあって、母も父も、彩佳を甘やかすだけ甘やかしている。彩佳もそれがわかっているから、買ってほしいものがあると、由紀より先に母にねだるくらいだ。

    「お姉ちゃんなんだから、我慢しなさい!」と言われ続けた自分とはえらい違いだと、不満に感じたこともあったけれど、服やおもちゃを買ってもらえると家計的に助かるのは確かだ。

    とにかく子どもは、驚くほどお金がかかる。習い事はもちろん、お出かけ費用もバカにならない。小学生になって、さらに塾の月謝も加わると思うと、気が遠くなる。

    彩佳が、「中学受験がしたい」「留学したい」と言い出したらどうしようか。まだまだ先の話とはいえ、気が重い。「アメリカの大学に留学するなら、1年で400万円かかるらしいよ」というママ友の声が頭の中でリフレインする。

    そんなわけで、夫の孝則の稼ぎに不満があるわけではないけれど、どうしても財布の紐は固くなってしまう。孝則のために買うアルコールだって、発泡酒だ。学生時代の友だちや前の会社の同期とも、以前のように気軽には会わなくなっている。仕事を辞めて5年、自分のために使える独身時代の蓄えも底をつきかけているからだ。

    彩佳の「ごちそうさま」が終わると、母が“おばあちゃん”から“お母さん”の顔になった。

    「そういえば最近、美咲が仕事頑張ってるみたいなの。会社の顧問税理士の先生に勧められて、税理士資格取るんですって」

    「ほんと?やっとやる気出したんだ」

    「お付き合いしている人もいないみたいだし、仕事も今一つ身が入ってないからどうするのかなって心配してたけど。昔から、やればできる子だったからね」

    そうなのだ。勉強にしてもスポーツにしても、こつこつ型の由紀に対し、5歳下の妹の美咲はすぐコツを掴んでしまう。ただ、何事にもクールで、のめり込むということがない。恋愛だってモテないわけではないのだが、あれはダメ、これはダメと好みがうるさすぎるのだ。

    「私がやらなきゃ」と勝手に責任を背負い込み、恋愛でも相手に尽くし過ぎてしまう由紀とはまったくタイプが違う。

    由紀が実家に泊まった日も、美咲の帰りは夜の12時近かった。気楽に遊び歩いていると思っていたけれど、ついにやりたいことを見つけたんだ。

    それに比べて私はどうだろう。家庭に入ったことは後悔していないし、子育ては楽しい。でも、幼稚園の年長ともなると、以前のようにはもう手がかからなくなっている。今だって、「レゴで遊んでもいい?」と聞いた後、こちらを見向きもしない。

    来年、彩佳は小学生になる。主婦としてだけでなく、仕事を通して社会に必要とされる人間になりたいという思いは、今も頭の片隅にある。それに、彩佳が夢を見つけたときに、お金を理由に断念させたくはない。でも、5年もブランクがある自分が、もう一度働くなんて現実的に可能なんだろうか……。

    「どうしたの?考え込んじゃって」という母の声で、ハッと我に返る。

    「いやー、今年も幼稚園で役員やることになっちゃって」と笑顔で返事をしながら、由紀は心の中で今日何度目かのため息をついた。

    ハードルを上げているのは、自分かもしれない

    「長かったね……」

    思わず口からもれた言葉に、目の前に座った沙織ちゃんママが大きくうなずく。今日は、幼稚園の役員の集まりがあった。6月に行なわれるイベント「お父さんと遊ぶ日」の詳細を詰めるはずだったのに、毎度のことながら話があちこちに飛び、終わったときには昼の12時を過ぎていた。14時のお迎えまで時間をつぶそうと、一緒に役員をやることになった沙織ちゃんママと、駅前のカフェにやって来たのだ。沙織ちゃんママとは娘同士が仲良しなので、よくお出かけする仲だ。

    注文したベーグルランチを待ちつつおしゃべりしていると、「私、実は来月から働くことになったんだ」と、沙織ちゃんママがさらりと口にした。

    「そうなの?どんな仕事?」

    確か、沙織ちゃんママは以前、外資系生命保険会社で営業アシスタントをしていたはずだ。

    「今度は事務職。前の仕事も、営業さんのサポートで見積書を作ったりして事務作業が多かったしね。まずは週に3回のアシスタントから始めて、沙織が小学校高学年になったら正社員になりたいなって」

    「ブランクがあっても、大丈夫なもの?」

    「何か武器がないとって思って、WordとExcelの勉強して資格だけは取ったんだよね。ずっとパソコン触ってなかったから、大変だったよ」

    ちゃんと復職に向けて準備していたんだ。5年のブランクを言い訳に、何もしていない私とは大違いだ。

    「そうなんだ……。子育てしながら偉いよ、ほんと」

    「ううん、そんなこと全然ないの。去年だったかな。このカフェで、偶然一緒に仕事してた会社の先輩を見かけたんだよね。バリキャリの営業ウーマンなんだけど、カッコよさがバージョンアップしてさらに素敵になってて。でも私、ご近所ファッションだったから、恥ずかしくて声かけられなかったの。それがあって、何だか、もう一度働きたいなって。こんなの、理由になってないかもしれないけど」

    その気持ちは何となくわかる。周りはどんどん成長しているのに、自分だけが取り残されていくような。

    「彩佳ママがうらやましいな。システムエンジニアだったんでしょ?スキルがあるから、復職もしやすいでしょ」

    「ただ、第一線に戻るのに5年のブランクはキツいんだよね」

    「そんなの勉強すればいいよ~。会社からすると、新卒よりは断然使える人材かもよ?社会経験はあるし、家庭を切り盛りするマネジメント力もあるよね、私たちって」

    そう言って、沙織ちゃんママは茶目っ気たっぷりにウインクしてくる。

    「それに、前職と一緒の仕事をするにせよ、新しい仕事に挑戦するにせよ、ゼロからのスタートだと思えば一緒じゃない?」

    確かにそうだ。前向きな沙織ちゃんママの言葉を聞いているうちにそう思えてきた。完璧な状態で復職しようとするから、ハードルが高くなるのだ。

    一歩一歩、少しずつ前に進んでいけばいいのかもしれない。


    結婚、出産で退職。ブランクを抱えて復職するべき?

    アドバイスをくれたのは……
    キャリアコンサルタント 土屋美乃さん

    慶応義塾大学商学部卒業後、株式会社リクルートエージェント(現リクルートキャリア)に就職。人材紹介部門の法人営業として主にIT業界に対する採用支援、人材紹介を行なう。また、人事部で新卒採用担当として、新卒採用にまつわる企画・設計から業務全般を担当した。2009年にキャリアカウンセラーとして独立し、2年後には株式会社エスキャリアを設立。『自分らしいキャリア』の実現をテーマに、主にライフイベント期の女性に向けたキャリア支援を行なっている。

    女性が、結婚や出産、夫の転勤などをきっかけに、キャリアを中断せざるを得ない環境に置かれるというのはよく起こり得ることです。由紀もそうだったように、ブランクを気にして復職への一歩を踏み出せない、または踏み出すきっかけがない女性のご相談も多く寄せられています。今回はそんな方々へのアドバイスです。

    【アドバイス①】「復職は必ずしも難しくない」と理解しよう

    仕事のブランクは、復職にどれくらいの影響があるのでしょうか。

    実は、由紀のようにバリバリ働いていた経験がある方は、基本的なビジネススキルを一度習得しており実務経験もあるため、現状の業界・業種の知識やビジネス感覚を取り戻せば、復職は難しいものではありません。私が経営するエスキャリアにおいても、5年といわず、10~20年近くブランクがある女性でも、彼女たちの意欲と努力が実り、復職をしているケースは多々あるのです。

    由紀のように、「必ずしも働かなければいけないわけではない」という環境下の場合、目の前にあるタスクに追われている間に、復職のきっかけを逃すケースも多いです。

    ブランクが長くなればなるほど、復職への不安も大きくなりますから、「復職は難しくない」ということを理解し、後悔しない行動をとることをおすすめします。

    【アドバイス②】今の自分に合った働き方を考えよう

    ただ、復職の際気を付けてほしいのは、20代の頃と同じ量や時間の仕事をするのは難しいと認識することです。体力も、仕事にかけられる時間も、当時とは違う方が多いと思います。

    そのため、ほとんどの場合働き方を変える必要があります。例えば、「フルタイムで残業も期待される仕事」ではなく、「成果を出せば時間の拘束が少ない仕事」「フリーランスで時間に融通がきく仕事」などに切り替えることが必要かもしれません。

    近頃はテレワークや時短勤務などの制度も整備されてきており、子育て中でも働きやすい社会に変わってきています。自分の生活スタイルをふまえて、無理なく復帰できる環境を探しましょう。

    【アドバイス③】「自分にできること」を軸に復職先を考えよう

    復職を検討する際、「また働きたいけど、再び同じ仕事をしたいかというと、そういう訳ではない」という方も少なくないでしょう。

    実は、同じ業界や職種でないと戻れないという訳ではないのです。もちろん一度身につけたスキルが活かせる環境に戻れるのであれば幸運ですが、結婚、子育てなどのライフイベントを経て志向性が変わり、全くの異業界・異業種にチャレンジしている方もいます。

    その場合には、「ポータブルスキル」という概念をお伝えしています。業界・業種を超えて「持ち運び可能なスキル」という意味です。

    例えば、由紀と同じ「システムエンジニア」として働いていた場合、その時に身につけたスキルは「専門的なプログラミングスキル」だけでなく、「周囲と連携する力」「論理的に考える力」「継続力」「計画力」等挙げればきりがないほど、ポータブルスキルも身についています。

    同時に、子育てにおいても「忍耐力」や「マルチタスク能力」など実は多くのポータブルスキルが身についているのです。沙織ママが言うように「家庭をマネジメントする力」も、チームマネジメントに大いに応用できるものです。

    自分にどんな力や強みがあるのか、何ができそうなのかを一度専門家に相談してみることも良いきっかけになると思います。

    【メッセージ】キャリアを立体的に捉えて、自分で選択していきましょう

    人生100年時代と言われている現代です。子育ての期間も自分の人生の大切な時間だと思って、そこに専念するという選択も、とても素敵で貴重なキャリアだと思います。

    特に女性の人生は「はしごではなく、ジャングルジム」と例えられることがあります。1つの企業に勤め、昇進していくのがはしごだとすると、ジャングルジムはいろいろな方向に進んでいいのです。

    自分の人生において、「今、大切なこと」は何なのかを、自分で選んでいるという感覚をもってください。その時の経験はきっとあなたの人生にとって素敵なキャリアになっていくはずです。

    小説/伊藤彩子
    イラスト/小野塚綾子

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