キャリア

「将来が何となく不安」な27歳女性が抱えるモヤモヤ #4人の生き方、働き方vol.1


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    バリバリ働く周囲を見て焦ったり、仕事と家庭の両立で戸惑ったりと、とかく悩みが多い女性のキャリア。

    計4回にわたってお届けするこの連載では、女性が抱えるキャリアの悩みを、短編小説風にご紹介。その後、実際のキャリアコンサルタントがその悩みについての考え方や解決策をアドバイスしてくという、小説とリアルがコラボした企画になっています。

    小説には、年齢や職業、家族構成の違う4人の女性主人公が登場。ぜひ、ご自身やまわりの方々と重ね合わせて読んでみてくださいね。

    恋愛も仕事もそれなり。それでも将来がなんとなく不安……

    連載第1回目となる今回は、「はっきりとした悩みはないけれど、恋人もいなければバリキャリでもない自分の将来が、なんとなく不安」という、メーカー経理の27歳、美咲のストーリー。

    「普通にいいヤツ」と結婚できた姉に、私の気持ちはわからない

    今日の合コンは最悪だった。場所は、麻布十番のスペインバル。男性陣は、誰もが名前を知っている大手商社勤めだったけれど、まったくもって好みじゃなかった。

    美咲は、コーヒーを片手に、つい1時間前までの合コンを思い返していた。

    まず、オーダーの仕方が気に入らない。全員が全員、お店の店員さんに「ビール」と言い捨てているではないか。どうして「ビールください」「ビールお願いします」と言えないのだろう。店員さんに威張る男にロクなヤツはいない、というのが美咲の持論だ。

    そんなことを言ったら、また姉の由紀に「語るね~」と茶化されることだろう。そのあとに続くのは、「男への注文が多すぎる。だから3年も彼氏ができないんだよ」というセリフ。もう言われ慣れてしまって何とも思わな……くはない。正直、ちょっと傷ついている。

    それは、「持てる者」の言い分だからだ。IT企業でシステムエンジニアとして働いていた5歳年上の由紀は、毎晩深夜に帰宅するほど仕事に打ち込んでいたのがウソのように、28歳であっさり寿退社した。結婚を決めたときすでに妊娠4カ月だったこともあってか、当たり前のように専業主婦になってしまったのだ。由紀の娘、彩佳は今年でもう5歳になる。

    相手は、学生時代から付き合っていた同級生の孝則だ。2人は長い付き合いだったから、美咲も一緒に遊びに行ったこともあって、孝則をよく知っている。彼は、「ビールお願いします」とちゃんと言える男だ。別に取り立ててイケメンでもなく、デキる男でもないけれど、普通にいいヤツだと思う。その「普通の男」が、なかなか世間にはいない。

    その事実を、由紀にいくら説明しても、どうもピンとこないらしい。由紀の頭の中では「美咲に彼氏ができないのは、男への注文が多いから。美咲は自分より器用なのにもったいない」ということになっているのだ。時折、由紀の友人のSNSを見せられては「この人はどう?」とか言われる始末。

    「持てる者」に、「持たざる者」の気持ちはわからない。姉のことは好きだが、2人の間には深すぎる溝が横たわっていると感じる。

    27歳で彼氏もおらず、仕事も“そこそこに”やっている美咲のことを、どうして「器用」だと思うのかは謎だ。ただ、由紀は長女らしく、親の期待を裏切れない、妙に生真面目なところがある。だから、「器用」というのは、世間を何となくふわふわ要領よく渡っている、美咲の次女気質を指しているのかもしれない。確かに職場でも美咲は「つかみどころがない」とよく言われる。仕事はそれなりにこなすものの、言われたこと以上のことはやる気が起きない。そんな姿勢に「物足りない」「もっと上を目指せ」と言ってくる上司が、最近正直鬱陶しい。

    大人になっても、人前でケンカするんだ……

    まあ、お気楽に見える次女には次女の悩みがあるんだけど。ため息をついたと同時に、スマホが震えた。由紀からのLINEだ。

    「嫁入り前の娘が、23時30分に帰ってないってどういうこと?」

    大きなお世話だ。2人は今日も実家に泊まるのだろう。由紀たち一家の住まいは、美咲と両親が暮らす実家から自転車で10分の距離にあるマンションだ。孝則もエンジニアで帰りが遅いこともあって、由紀は娘の彩佳を連れて実家にやってくるのはもちろん、泊まるのもしょっちゅうだ。

    「いま駅前のカフェ。これから帰る」

    美咲は冷たくなったコーヒーの残りを慌てて飲み込むと、ピリリとした酸味を舌に感じ、思わず顔をしかめた。ホンジュラスの農園から採れた豆のみで淹れたシングルオリジンコーヒーは、あたたかいときは果実味の甘みが感じられるが、冷めると酸味が立ってくる。1杯700円のコーヒーは、美咲にとっては決して安くはない額だが、ちょっと気分が落ちたときに飲むと、何となく前向きになれる気がする。

    こうしたコーヒー代も、由紀に言わせると「まったくの無駄遣い。将来を考えてない。貯金しろ」ということになる。美咲だって専業主婦への憧れはあるけれど、このご時世、そもそも相手の収入だけで暮らしていけるかといえば怪しいものだ。相手に気兼ねなく好きなコーヒーを飲むには、やっぱり働き続けなくちゃいけないのかもしれない。

    両親が待つ家に真っすぐ帰りたくないとき、美咲はいつもこの駅前のカフェに立ち寄っている。遅くまで開いている店が近くにないこともあって、深夜2時までやっているこの店は、いつ来ても満席に近い盛況ぶりだ。

    帰ろうと席を立った美咲の耳に、「何も知らないくせに!」という女性のヒステリックな声が飛び込んできた。店内を見回すと、入り口に一番近いテーブル席で、2人の女性が言い争っている。立ち上がって頬を紅潮させているのは、グレンチェックのテーラードジャケットにセットアップのワイドパンツを合わせている、ショートカットの女性だ。40代くらいだろうか。この人が、大声の主らしい。

    席についたまま下を向き、身体を硬直させているのは、大声を上げた女性より少し若い。30代後半くらいだろうか。

    彼女たちは、どんな仕事をしているんだろう。結婚しているのか。子どもはいるのか。興味はあれど、そんな疑問を直接ぶつけるわけにもいかず、美咲は店を出た。しばらく歩いて振り返ると、ガラス越しに店員が仲裁に入っているのが見えた。

    自分から見れば、はるかに大人の女性たちが、どうして言い合いになったのか。歩きながら考えてみたものの、美咲にはさっぱり想像がつかなかった。人のケンカより、心配なのは自分の将来だ。

    由紀や上司にあれくらい強く不満をぶつけられたら、自分もスッキリするだろうか。そう考えたが、すぐに違うとわかった。自分には声を荒げるほどの不満はない。ただ、なんとなくモヤモヤしているだけなのだ。

    税理士の先生に「数字のセンスがある」と褒められて

    午前11時。今日は、うちの会社と顧問契約を結んでいる、税理士の高田先生と月次決算書作成の打ち合わせだ。経理業務は、「毎日行なう業務」「月次で行なう業務」「年次で行なう業務」とざっくり3つに分かれている。私が担当しているのは「毎日行なう業務」。営業さんの経費や日々のお金の出入りをまとめたものを、税理士の先生が月次決算書、年次決算書にしてくれるのだ。

    高田先生は、73歳のおじいちゃん税理士。ただ、週3でジム通いしているためか、お腹も出ておらず、ビシッとスーツを着こなした、ロマンスグレーのダンディなおじいちゃんだ。

    「美咲ちゃんさ、そろそろ税理士の資格、本気で考えてみれば?」

    高田先生は、いつも私に税理士資格を取れと進めてくる。でも、今は会計ソフトを使えば、ある程度の決算業務はできてしまうから、苦労して資格を取得しても、それに見合う稼ぎは得られないのではないか。私がそう反論すると、先生はいつも笑って何も言わなくなる。でも、今日は違っていた。

    「単に決算書を作るだけが税理士の仕事じゃないんだよ。数字を見て注力すべき事業を経営者にアドバイスするといった、コンサルティング業務も仕事のうちなんだ」

    「へぇーそうなんですか」

    「美咲ちゃん、時々鋭いこと言うから、センスあると思うんだよね」

    センスがある?何の勘違いだろうか。

    「ほらこの前、何も教えてないのに、決算書を見て『あーあ、新商品の乱発で利益率が下がっちゃってますね。もっと商品数絞り込めばいいのに』って言ったよね。ああいうのって、教えても分からない人は分からないんだ」

    本当に自分にセンスがあるのだろうか。何もかも捨ててまで仕事を頑張る根性は私にはないけれど、数字をコツコツ追うのは嫌いじゃない。資格を取る、取らないは別として、27歳の今、本気で将来を考えてみるのもいいかもしれない。

    「じゃあ、ちょっと税理士の勉強始めてみようかな」

    高田先生の顔に、みるみる笑いが広がっていく。現れないかもしれない不確かな結婚相手より、今はこの笑顔を信じたい。


    結婚?キャリアアップ?将来の漠然とした不安……若手世代はライフプランをどう考える?

    アドバイスをくれたのは……
    キャリアコンサルタント 土屋美乃さん

    慶応義塾大学商学部卒業後、株式会社リクルートエージェント(現リクルートキャリア)に就職。人材紹介部門の法人営業として主にIT業界に対する採用支援、人材紹介を行なう。また、人事部で新卒採用担当として、新卒採用にまつわる企画・設計から業務全般を担当した。2009年にキャリアカウンセラーとして独立し、2年後には株式会社エスキャリアを設立。『自分らしいキャリア』の実現をテーマに、主にライフイベント期の女性に向けたキャリア支援を行なっている。

    美咲のような、将来のキャリアに対して漠然とした不安をもつ20代~30代の相談者は増加傾向です。

    特徴としては、

    • SNSなどで情報収集をしており、多すぎる情報から将来への不安が過剰に高まっている。
    • どんな会社にいても、どんな仕事をしていても、隣の芝生が青く見えてしまう。
    • 社内や身近なところに目指したい存在や生き方がなく、行き詰まり感を感じている。
    • 会社からの期待(特に上司からの)と、自らが望むキャリアにギャップがある。
    • 自分自身の可能性に気付いていない。

    このようなことが挙げられます。現代の女性のライフプランは多様化しており、まだ訪れていない未来に対して、「こうなったらどうしよう」と不安になられている方が、私の元にも多くご相談に来られます。そんなときにお伝えする考え方をご紹介します。

    【アドバイス①】「明確なプランは、必ずしも必要ない」ことを理解しよう

    キャリア理論の中でも近年最も支持されている「プランドハプンスタンス」という考え方をご存知ですか?

    なんとキャリアの8割ほどは、「偶然の出来事や出会い」から引き起こされるといった考え方です。変化の読めない時代において、明確なキャリアプランは必ずしも必要なく、偶然の出来事や出会いを味方に付けるようなポジティブ・シンキングによって、キャリアを構築していくことができるという理論です。

    企業が安定して成長していた高度成長期には、個人のキャリアにおいても十分に先を見通すことができたため、綿密にキャリアプランを設計して、それに合わせて経験や知識、スキルを身に付けていくというアプローチが有効でした。

    しかし、現在は環境の変化も早く、予測しにくいことも多いため、その時々の環境の変化に合わせて柔軟に対応していくというスタンスのほうが、気持ちが楽になるはずです。

    特に、20代の頃はまだ何者にでもなれる可能性のある年代です。20代の自分に見えている世界観で綿密にキャリアプランをつくってそれに縛られてしまうよりも、偶然的にも思えるような出来事や出会いから引き起こされてくる目の前のことに120%の力を注いでみることが、その先の未来を、自分の想像を超えるものにしていくことになるでしょう。

    【アドバイス②】「やる気が起きない」自分を責めないで。スイッチが入る環境を選ぼう

    美咲は「言われたこと以上のことはやる気が起きない」のに対し、上司には「やる気を出す」ことを求められ、ギャップを感じていますね。

    「やる気」や「熱意」といったモチベーションには、外発的なものと内発的なものの2種類あります。他者からの評価や賞罰、強制といった外部からの刺激により上下する「外発的モチベーション」と、自分の興味関心や楽しみによって上下する「内発的モチベーション」です。

    もちろん、自らの知的好奇心や充足感、成長感を満たせる仕事に就けている場合は非常にラッキーかと思いますが、残念ながらそうではないケースもあります。

    美咲も今の「仕事の内容」に対して内発的にモチベートはされていないようなので、信頼を置いている税理士の先生に言われた一言で、それがきっかけとなり自らがモチベートされる環境や仕事に出会えるといいなと思います。

    特に女性は、人からの期待に応える、感謝されるといったことによってやる気が出ることが多いものです。そうしたモチベートされる環境を自ら選んでいくことも、やる気スイッチを入れるきっかけになるかもしれません。

    【アドバイス③】自分の欠点ばかり見ないで。自分を認める心がけを。

    美咲が「他人にも自分にも厳しい」性質があることには気が付きましたか?美咲に似ている性格の人は、気付きにくかったかもしれません。

    他人に厳しい方の多くは、自分に対しても厳しい目線を持っており、「長所」や「出来ている事」よりも、「短所」や「出来ていない事」に目が向きがちです。人は無意識でいると、つい「欠点」に目が向きがちなのですが、敢えて、自分に対しても他人に対しても世の中に対しても「良いところ」や「すでにあるもの」を見るように意識していくと、自分に対しても「長所」や「出来ている事」を認めていけるはずです。

    キャリア形成において何より大切なものは、「自分を認める事」つまり、「自己効力感」を持つことなのです。自分ならできるかもしれない、という自信を持つことが、次の「自分らしいキャリア」を切り拓いていくチャンスをつかむ第一歩です。そこから「やりたいことがみつかる」「仕事にやりがいを感じる」ということにもつながっていきますよ。

    【メッセージ】同じ悩みを持つ方へ伝えたい、3つの「あ」

    私が20代の女性の方に伝える「3つの『あ』」というキーワードがあります。

    人生100年時代と言われる中で、20代~30代はまだまだ駆け出しです。キャリアが見通せなくて当然なのです。ですから、「あわてない」「あせらない」そして「あきらめない」で、日々の偶然の出来事や出会いを大切に過ごしてみてくださいね。

    小説/伊藤彩子
    イラスト/小野塚綾子

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