キャリア

人生100年時代に知っておきたい、お金には換算できない「無形資産」の運用法


    • Facebook
    • Twitter
    • Hatena
    • Line

    人生100年時代という「超長寿社会」では、以前のような一つの会社で定年まで滞り無く働くというキャリアプランニングが通用しなくなるかもしれません。では、私たちはこの人生100年時代でどのように自分のキャリアを築いていけばよいのでしょう?

    今回は、「無形資産」と「変幻自在」という二つのキーワードを軸にして、これからのキャリア形成で大事なことを、法政大学キャリアデザイン学部教授・田中研之輔さんに教えていただきました。

    人生100年時代に不可欠な二つの資産運用とは

    日本では令和という新たな時代を迎えました。令和時代の歴史的特徴は、「超長寿社会」の本格的到来にあります。平成時代に形成されてきた「長寿社会」よりも、我々の生きる時間は長くなります。人生100年時代が現実化するのです。

    そこで考えなければならないことは、いかに毎日を楽しく、豊かに過ごしていくのかということですね。そのためには、二つの資産運用について設計していくことが欠かせません。

    一つは、預貯金、株式、土地、車、などの有形資産の運用です。
    もう一つは、直接的にはお金に換算できない無形資産の運用です。

    金融資産や不動産などの有形資産の運用方法については、すでに聞いたことがあるかと思います。有形資産と同様に、人生設計において欠かすことができないのが無形資産の運用ですが、その運用方法について知る機会は少ないのではないでしょうか。

    無形資産として代表的なものは、スキル、知識、友人、家族、肉体的・精神的健康、ネットワークなどです。

    「そんなことでいいの?」と感じた方は、要注意です。

    スキル、知識、友人、家族、健康、ネットワーク。これらを資産として捉えることが大切なのです。日頃から何ら意識することのないごく当たり前の事柄を資産として捉えることで、長期的な視点での取組みや関わり方が可能となるのです。例えば、ビジネス英語を資産として捉えてみましょう。いつ、いかなるビジネスシーンでどのレベルの英語力が必要かを定め、計画的に準備するようにします。現状の英語力でその場しのぎ的に対処するのではなく、継続的な学習によって向上させていくのです。そのようにして身に付くビジネス英語は、あなたのキャリア形成にとって貴重な無形資産となるのです。

    さて、無形資産を貯めていますか?無形資産を運用していますか?

    無形資産の三分類

    この無形資産に注目したのが、ロンドン・ビジネススクールのリンダ・グラットン教授とアンドリュー・スコット教授です。心理学と経済学の専門家である2人が書いた『ライフシフト:100年時代の人生戦略』(東洋経済新報社)は、翻訳本でも32万部をこえるベストセラーになりました。

    継続的に学びスキルや語学能力を高めていくこと。日頃から食生活に気をつけ、健康な状態を維持すること。友達や家族を大切にすること。

    これらのことが、私たちの生活を(精神的に)豊かなものにすることは誰もが経験的に感じていることです。

    リンダ・グラットン教授らの問題提起として評価される点は、二つあります。

    一つは、私たちにとって感覚的に大切だと思われていることを「無形資産」として名付け、それを意識的かつ計画的に管理できるものだという視点を提示してくれたことです。

    もう一つは、無形資産がそれ自体として価値があるというだけでなく、有形の金融資産の形成を助け、人生100年時代を豊かに過ごすために欠かせない資産運用であると提起してくれた点です。

    これによって、これまでどちらかというと、仕事と家族、仕事と余暇、会社の同僚とプライベートな友人、というように、仕事とそれ以外のことを分けて考えていた私たちの価値観を見直し、それぞれのバランスを取り、繋いでいく視点を手に入れることができたのです。

    言い換えれば、これまで人生設計という点では感覚的な範疇にとどまり正当な評価を受けていなかった無形の資産が再評価されることになったのです。

    無形資産は三つに分類されます。

    1. 生産性資産…仕事で生産性を高めて成功し、所得を増やすのに役立つ要素(スキル、知識、語学、プログラミング等)
    2. 活力資産…肉体的・精神的な健康。友人や家族との良好な関係。
    3. 変身資産…人生の過程での変化に対応し、自らを変えていく力。

    これらが、リンダ・グラットン教授らが提起している無形資産になります。無形資産では、遺伝的・先天的な要素は除外され、後天的に本人の選択によって形成されるものに焦点を当てています。

    この三つの資産を貯めたいと考えるときに、私からもう一つ、ヒントとなる考え方を紹介しておきますね。

    変身資産を貯める「プロティアンキャリア」とは

    無形資産を貯めていく中で最も大切で、最もイメージしにくいのが変身資産です。というのも、人生も数十年が経過すると、「それぞれの生き方や働き方」の「型」が確立されています。いわば、人生を構成する日々は、ルーティン化されてくるのです。

    そのような日々は、行動や考え方を変えない方が何事もなく進んでいくようになります。変わらないことが安定だったりします。

    しかし、ここで感じている毎日の安定にはリスクも潜んでいます。それは、変わらない日々の中では、変身資産が蓄積されないということなのです。

    一つの会社に就職して、組織の中でキャリアを形成し、退職を迎え、退職金と年金でその後の人生を過ごしていくことができた時代では、変身することはリスクだったのかもしれません。

    しかし、時代は変化します。私たちが生きている社会も私たちと同じように生きていて変化しているのです。

    変わらないことで、社会の変化に取り残されることが多いにありうるのです。AIやIoT領域でのめざましいテクノロジカル・イノベーションは、社会をより便利にしていくだけでなく、社会が変わるスピードをより早くしていきます。

    こうした流れに、個人で対峙することは無謀です。変化に備え、その時々で新しい自分に変身を遂げることで「変身資産」を貯めていく。それが、豊かな人生を過ごしていく近道だと言えるでしょう。

    この変身資産を貯めるための行動指針を示してくれるのが、「プロティアンキャリア」という考え方です。プロティアンの語源は、ギリシア神話に出てくる神プロテウスです。神プロテウスは、火にもなり、水にもなり、時に獣にもなったりと、環境の変化に応じて、変幻自在に姿を変えます。

    このプロテウスという言葉にキャリアを掛け合わせて、プロティアンキャリア論を提唱したのがボストン大学のダグラス・ホール教授です。プロティアンキャリアという考え方で、私たちが学ぶべきことは、二つあります。

    1. キャリアは組織ではなく個人によって管理されるものであること
    2. キャリアは継続的な学習を続け、環境の変化に適応し、その都度、方向性を変え深化させるものであること

    一つの組織にキャリアを預けるのではなく、自らのキャリアを自らプロデュースし、形成していくようにするのです。そのために、変化を見極め、変化に対応するために、自ら変わることを恐れてはいけないのです。

    自ら変わるには、トレーニングが必要になります。個人目標を再設定してみる。働き方を変えてみる。新しいことに挑戦してみる。できることから始めていくようにしたいものです。

    自分でも可能なキャリア開発

    さらに、ここで不可欠なことが、キャリアプランニングです。いつまでにどう変わっていくのか。どのように適応していくのか。組織が戦略を立てるのと同じように、自分自身で戦略を立てるのです。職場で組織開発が実施されるように、個人でキャリア開発を意識的に行なうようにするのです。

    もちろん、組織開発の経験がない方でも、自らのキャリア開発は可能です。あなた自身がこれまでに蓄積してきた無形資産を書き出してみるのもいいでしょう。例えば、働きながらビジネス英語を学んできた。週に1回のペースで3年間続けて、TOEICの点数を伸ばしたということもキャリア開発の一つの実践だと言えます。

    いつまでにどのようなスキルを得たいのか、どんな領域で活躍していきたいのかなどを、スプレッドシートに落とし込んでいくのも効果的です。大切なことは、有形資産のように直接的に金銭的価値で変換できない無形資産をまず、自分自身で「見える化」させることなのです。

    無形資産の「見える化」を行なうことで、現状を把握し、その先に自らどう変わっていくのかを中長期で考え、プランニングしていくことが可能となるのです。

    このようにリンダ・グラットン教授らの「無形資産を貯める」、ダグラス・ホール教授の「変幻自在のキャリア形成」、この二つは新時代を豊かに生き抜くヒントだと言えます。

    いかなる無形資産を中長期的にどう蓄積していくのか。意識的に、組織から個人を解放し、超長寿社会を豊かに生き抜く人生設計を立てていくのです。

    変わらないことで得られる目先の安定ではなく、変わり続けていくことで変身資産を形成していくことが人生100年時代を生き抜く上での鍵となるのです。

    私も改めて、問いかけてみたいと思います。

    無形資産を貯めていますか?

    ※参考文献
    リンダ・グラットン(著)、アンドリュー・スコット(著)、池村千秋(訳)、『LIFE SHIFT(ライフ・シフト):100年時代の人生戦略』(東洋経済新報社)、2016年

    <専門家プロフィール>

    ●文/田中研之輔(たなか けんのすけ)

    1976年生まれ。法政大学キャリアデザイン学部教授。博士(社会学)。株式会社ゲイト社外顧問。一橋大学大学院社会学研究科博士課程を経て、メルボルン大学、カリフォルニア大学バークレー校で客員研究員をつとめ、2008年に帰国。専攻は社会学、ライフキャリア論。著書に『教授だから知っている大学入試のトリセツ』『先生は教えてくれない就活のトリセツ』『先生は教えてくれない大学のトリセツ』(ちくまプリマー新書)、『ルポ 不法移民』(岩波新書)などがある。著書21冊。社外取締役・社外顧問14社歴任。新著に『PROTEAN』(日経BP社)。

    <関連記事>

    25歳で独立した女性経営者が教える「働き続けたいママへのヒント」

    「職業人生の専門家」に聞いた、転職で失敗しないために気を付けたい「3つのこと」

    夫婦の働き方で老後に「3000万円の差」がつくことをご存じですか?

    理想のキャリアは「休日」でつくる。「土日の6コマ時間割」の使い方

    「英語に自信がない人でも海外で大活躍」「都会よりも地方の企業で働いたほうがいいことも」……これから一生稼ぐための「逆転の発想」キャリア術

    <関連サイト>

    わたしの未来へ つみたて投資。

    <関連キーワード>


      RECOMMENDED この記事を読んでいる方へのオススメ

      カテゴリーごとの記事をみる


      TOP