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「円高・円安」が経済に与える影響は?株価ニュースの見方講座【その2】

公開/2023年1月

テレビのニュースなどで、株価とともに伝えられる指標に「為替の値動き」があります。「円高・円安」はわたしたちの生活にどのような影響があるのでしょう。より深く読み解くためのニュースの見方を紹介、さらに、為替変動を踏まえた投資の考え方について大学の資産運用の講義を複数担当している市川雄一郎さんにうかがいました。

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円高・円安とは? 具体的にどういうこと?

普段日本で生活していると、あまり為替相場を意識しない人も多いのでは。また、海外旅行などの際には意識していても、コロナ禍の影響で、「為替相場はご無沙汰です」という人も多いはず。ここでは、円高・円安について、改めて理解を深めましょう。

円高・円安の考え方

「簡単に言ってしまうと、円という通貨の価値が、高くなったら“円高”で、低くなったら“円安”です。簡単な例を挙げて考えてみましょう。手数料などは考えないものとします。
例えば1個1ドルのリンゴがあり、これをアメリカから輸入している企業があるとします。1ドル100円だったとすると、100個輸入すると100円x100個=1万円が必要です。

“1ドルが90円になりました”というと、100個輸入するのに90円x100個=9,000円でよくなるわけですね。手元に1,000円が残り、お得になりました。これが『円の価値が高くなり、少ない円で多くのドル(分のリンゴ)を購入できる』円高の例です。
一方で“1ドルが110円になりました”となると、100個のリンゴを輸入するためには110円x100個=1万1,000円必要になり、1,000円多く支払わなければならなくなります。円の価値が低くなり、同じものを購入するにも、より多くの円が必要となります。こちらが円安の例です」(市川さん)

通貨が描かれた積み木

円高と円安、どっちがいいの?

市川さんに「円高とは?円安とは?」の項でそれぞれについてご説明いただきました。ここでは、個人への影響と企業への影響と分けて、円高・円安のメリット・デメリットをまとめてみましょう。

円高・円安のメリット・デメリット

円高

【個人】
メリット:輸入品の価格が下がったり、海外旅行にかかる金額が安く済む。
デメリット:外貨預金など、海外資産に投資している場合、日本円換算すると資産価値が下がってしまう。

【企業】
メリット:輸入コストが安くなり輸入産業の利益が増える。
デメリット:日本の輸出製品の価格が高くなり、海外で売れにくくなってしまう。

円安

【個人】
メリット:米ドル資産など外貨建て資産の価値が上がる。
デメリット:輸入商品が高くなる、生活必需品や原油などのエネルギー資源など、さまざまな品目の物価が上がる。

【企業】
メリット:輸出製品の現地での価格が下がり、海外で日本製品が売れやすくなり輸出産業が好調となる。円安は日本のモノやサービスが安くなる状態なので、外国人観光客の増加も見込める。
デメリット:エネルギー資源や原材料などの輸入コストが高くなり、利益が減る。

最近は大手企業の海外生産が進み、為替相場のみに業績が左右されない企業も増えつつあります。また、原油等のコストは企業業績に大きな影響を与えます。

「原油は、電気をはじめ、道路を舗装するアスファルトからペットボトルまで幅広い分野で使われています。原油高が企業に与えるインパクトは、とても大きいでしょう。現在のような原油高が続くと、円安であっても、コスト高で企業の負担が増え、業績の重しとなり、好景気につながらない場合もあるかもしれません」(市川さん)

原油価格をはじめとするコストなどの影響もあり、教科書どおりに経済が動かない傾向があるとのこと。投資する際には、“円安だからこの業界”といった考えではなく、個別の企業ごとに業績等をチェックしていく姿勢が必要になりそうです。

最近の円安で、株価はどのような動きを見せているの?

最近の急激な円安で、好景気での株高などを期待したいところですが、実際の株価への影響はどうでしょうか。

「最近は円安が進んでいるのですが、一方で原油高も進んで、コスト高が懸念されています。教科書どおりに円安=株高になっていない状況です。というのも、各企業は社内で為替相場の想定レートを設定していますが、各社とも社内レートをここまでの円安状況に設定しておらず、そのため経営戦略等も強気な今後の見通しを持てておらず、株高につながりにくくなっています。

製造業にも輸送にも欠かせない原油の高騰は、しばらく日本の経済に大きな影響を及ぼしそうです。為替相場だけでなく、原油価格にも着目するのがお勧めとのこと。

通勤のイメージ写真

個人で為替取引できる? 為替相場関連の投資商品はこんなにある!

前回の記事では、為替の変動が大きいときに持っているとよい商品について市川さんに伺いました。今回はもう少し具体的にみていきましょう。
「為替が関係する投資商品は、まず、外貨建ての預金や外貨MMFがあります。また、外国株も、日本の証券会社で取扱っていれば国内で購入することができます。付随して、外国のETF(上場投資信託)や外貨建て債券なども、日本の証券会社で投資することが可能です。
投資信託の中には、為替ヘッジ(為替変動を抑えるしくみ。コストがかかることも)があるかないかも選べるものもあります。国際分散投資の考え方からすると、為替ヘッジなしをご紹介したいところです。
なお、FXは預けた資金以上の取引ができるレバレッジという手法がありますが、予想と反対に相場が動けば、発生する損失額もその分、大きくなりますし、レートの変動も大きいので投資初心者の方や、地道な投資を行ないたい方にはあまりお勧めしません」(市川さん)

このニュースには要注目! 為替相場にインパクトがある経済ニュース

為替相場関連で注目すべき経済ニュースについて、さらにうかがってみましょう。

「まず、アメリカのFOMC(連邦公開市場委員会)は必ず押さえたいものです。アメリカの金利が今後どうなっていくのかという推測ができます。また、アメリカの消費者物価指数や新築の住宅着工件数、有効求人倍率や失業率、自動車の新車販売も気になるところです。お時間のある際に“いつ頃発表かな”と気に掛けておくと、ニュースの先読みまではいきませんが、心の準備ができるかもしれません」(市川さん)

一方で、「突発的なニュースのインパクトも大きいです」と市川さん。
「例えば戦争勃発とか、テロ、大規模な自然災害などや、株式市場に何か不具合が起きてシステムが止まってしまうというようなことがあったりすると、為替に大きく影響します。これは突発的な有事です」

“突発的な有事”に強い通貨は、やはり米ドルでしょうか。
「“有事のドル買い”は、為替市場の格言の一つです。例えばテロが起こった場合など、為替相場では米ドルが強くなる傾向があります。アメリカは軍需産業も盛んで、さらに軍事支援で、紛争国にアメリカからたくさんの武器を供給する場合があります。アメリカ企業の業績が伸び、為替相場も米ドルが買われる流れになるようです」(市川さん)

チャートと地球儀

まとめ

円高・円安、それぞれで経済に対しメリット・デメリットもあることがわかりました。また、為替相場は、大きな一つの要因で決まるのではなく、さまざまな要因(金利の動向や経済ニュース、政治トピックス、突発的な有事など)が連鎖的に影響を及ぼすことも。

円安でも株高とならない現在、市川さんからのアドバイスは “為替に関する情報も見ながらも、企業の四半期決算や中長期計画をしっかりチェックする”こと。

「ご自分が投資する際に調べる情報や知識は、それだけで武器になります。知識を積み重ねることで、“投資で勝つ力”が養われます。少額から実践して、自分なりの投資アイテムを増やすと、大きなリターンになって返ってくるはずです」(市川さん)

取材協力

市川 雄一郎さん

MBA(経営学修士/専門職)、CFP® (日本FP協会認定)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士 (国家検定資格)、証券外務員一種の資格を持つ。現在、講演業務、講師業務、金融機関へのアドバイザーなども行ない、テレビやラジオ、雑誌や大手新聞社などへのメディアへの露出も多い。共著本は多数あるが、初心者向けの「はじめての資産運用」(日本経済新聞社)は改訂版を含めて計10刷まで増刷された。独自の視点で経済を読み解き、難解な経済用語をわかりやすく伝えることに定評がある。

取材・文/大倉愛子

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