ウォーター・ボンド特集
柏木 幹夫 氏/アジア開発銀行 財務局長
1975年日本の大学卒業後、日本及び外資系の民間銀行勤務を経て、2003年よりアジア開発銀行(ADB)勤務(当初、財務局次長、2004年より財務局長)。
“民間時代は欧米関連業務中心で、希望していたにも係わらずアジア地域の経験が無かったのですが、ADBに入って漸くその機会を得ました。ADBは国際機関として大変刺激的な職場環境ですし、マニラも『住めば都』で、生活を楽しんでいます。”

世界67カ国が加盟。アジアの貧困削減をめざす国際開発金融機関として長年の実績。

花岡: 本日は、世界の水問題やアジア開発銀行の取り組みについてお話をお聞かせいただければと存じます。まずは、アジア開発銀行について簡単にご説明いただけますでしょうか。
柏木氏:
私どもアジア開発銀行は1966年に設立され、すでに40年以上の歴史を持つ国際開発金融機関です。フィリピンのマニラに本部を置き、世界67の加盟国政府からの出資をもとに、アジア・太平洋地域における貧困削減と人々の生活向上、そして経済発展をめざして活動を行っています。そのために必要な資金の貸出などの金融活動のほか、研究や政策提言も活発に行っており、文字通りアジア・太平洋地域を専門とする最大かつ唯一の国際開発金融機関と言えます。
さらに昨年、アジア開発銀行では、出資者である各国政府の合意のもとに資本を3倍に引き上げる決定をしました。国際社会から今後の業務の拡大、拡張に大いに期待が寄せられているのが現状です。
花岡: そのアジア開発銀行において、日本はどのような役割を担っているのでしょうか。
柏木氏: 日本はアメリカと並んで設立当初からの最大の出資国です。歴代の総裁は日本人が務めており、貧困援助の現場でも日本の職員が多く活躍しています。そういった意味では日本とも大いに関わりのある国際機関であり、日本のみなさんにももっと親近感をもって接していただければと望んでいます。

「水」が貧困削減を阻害。一国では解決できない重大な問題をアジア開発銀行が担う。

花岡: では「水問題」に話題を移したいと思います。蛇口をひねればきれいな水が出てくる日本に住んでいるとなかなか想像できませんが、世界ではいまなお、およそ11億人が安全な飲み水を手軽に利用できないと言われています。そのうち3分の2がアジア・太平洋地域の人たちです。命を危険にさらして汚染された水を利用するか、労働・教育の機会を犠牲にしてどこまでも歩いて水を汲みにいかなければならないわけです。また、トイレなどの基本的な衛生設備を利用できない人の数は、25億人に達するとも言われており、こちらもその4分の3がアジア・太平洋地域に集中しています。
柏木氏:
おっしゃる通り、日本で暮らしていると、上下水道も完備し、かんがい治水もしっかりしていますので実感がないかと思いますが、アジアでは飲み水がない、あるいは適切な衛生設備がないという状況に置かれ、健康を脅かされている人々が本当にたくさんいらっしゃいます。まさに人間の尊厳に関わる問題です。
また、気候変動によって引き起こされる洪水などの自然災害も増加しており、この側面からも安全性が求められています。水に関する問題というのは幅広い側面を持っており、経済成長の大きな阻害要因にもなっているのです。日本の皆様にも、このような現状を広くご理解いただきたいですね。
花岡: こうした水問題に対して各国政府、国際機関、あるいは民間セクターによって、どのような対策が取られているのでしょうか。また、どのような障壁があるのでしょうか。
柏木氏: たとえば国連では、2015年までに世界の最貧困層を半分に削減するなどの目標を掲げた“ミレニアム開発目標(MDGs)”を設定し、我々もそれに賛同しているのですが、そのなかでも水関連の問題は強く主張されています。各国の開発援助機関においても、やはり重要な中心課題のひとつです。
ただ、水資源の問題の解決は、現実的には非常に難しい。複数の国にまたがって水利権などが絡んでいることが多く、一国の政府、あるいは民間セクターで対応するには手に余るケースがほとんどです。そんななか、我々のような世界67カ国から出資を得て、国境を越えて独立・中立で業務を推進する専門機関の果たしうる役割は大きいと考えます。
我々の事業は、利益を上げることが目的ではありません。各国政府から出資をいただき、その保証のもとにマーケットから資金を調達し、利益のためでなく諸問題解決のために貸出を行っています。だからこそ可能になるプロジェクトがたくさんあるのです。現在では、我々の活動の25%近くが水問題に関係しており、水問題の解決に向けて力を入れて取り組んでいます。

水問題解決のためにすでに250億ドルを貸付。資金需要はこれからも拡大の一途。

花岡: アジア開発銀行は現在、どのような方針のもとで水問題に取り組んでいらっしゃるのでしょうか。
柏木氏: 我々は国際機関として、どのような事業をどのような原理原則で行っているのかを常に開示する責任があります。あらゆる事項について、すべて根本から議論を行い、国際社会からの賛同を得てプロジェクトを推進しています。水問題に関しても、2001年という早期の段階から“Water for All(すべての人に水を)”というポリシーを全出資国の合意によって採択し、公式な基本方針として掲げています。その具体的な実行案として2006年に“ウォーター・ファイナンシング・プログラム”を策定。これは今年2010年までの業務計画であり、これに基づいて貸付を実行してきました。すでに貸出の累計額は250億ドル、日本円にして2兆円超に上っています。
花岡: この“ウォーター・ファイナンシング・プログラム”における実績を教えていただけますか。
柏木氏: プロジェクトは非常に多岐に渡っています。
代表的なものですと、インドネシアのチタラム川の総合水資源管理プログラムが挙げられます。チタラム川では、家庭の下水や固形の廃棄物、産業排水などが未処理のまま排出されていましたが、その対策費用として2008年から2014年にわたって5億ドルの貸付を行っています。これによって、2万5,000ヘクタールもの新規の水田が開発され、農家2万5,000世帯が恩恵に浴しているほか、ジャカルタ市で新たに20万世帯が飲料水の供給を受けることが可能になり、さらにバンドン市の重大な水不足の解消にもつながっています。
また、中国で3番目に大きい河川流域である松花江流域でも、未処理の排水が直接排出されていましたが、アジア開発銀行からの資金貸付によって、黒竜省および吉林省においておよそ940万人に飲料水を供給できる環境が整備されました。
そのほかにも事例は枚挙に暇がなく、水問題に対してこれほどの実績を上げている国際開発金融機関は他にはないと自負しています。さらにアジア開発銀行では、単に資金を提供するだけではなく、すべてのプロジェクトにおいて事後検証を実施。行内に独立評価局という組織を設け、投じた資金が確かな成果につながっているかどうかをきちんと評価する体制になっています。
“ウォーター・ファイナンシング・プログラム”は2010年までの計画ですが、もちろんその後も継続してこの分野に重点を置き、さらに事業を拡大していく方針です。これから2012年までの3年間では90億ドルのプロジェクトを予定しています。

“ウォーター・ボンド”を契機に、アジアの水問題に対する認識をさらに深めてほしい。

花岡: そのアジア開発銀行の今後の水問題の取り組みに大きく寄与することになるのが、今回発行する“ウォーター・ボンド”なのですね。ここ1〜2年、資金使途を社会的課題の解決に寄与する事業に特定した債券の発行が相次いでいますが、水関連事業を対象とした債券の発行は日本では初めてとなります。
柏木氏: 我々にとっても初の試みであり、大いに期待しています。2012年以降の後続のプログラムについても、この“ウォーター・ボンド”を通して投資家のみなさまから広く支援がいただければ、さらなる業務拡大のためのひとつのインセンティブにもなります。
アジア開発銀行の職員はみな、国際的に意義のある仕事をしているという自覚と使命感をもって業務に臨んでいます。この“ウォーター・ボンド”への投資を通じて、みなさまにもそこに関与しているという思いを抱いていただければ、これほどうれしいことはありません。
また、投資家のみなさまへ水問題に対する活動内容について報告レポートを作成することも検討しています。ご自身が投じた資金がどのように役に立っているのかを実感していただき、アジア開発銀行の活動をより幅広く理解していただく契機になればと思っています。
花岡: 最後に日本の投資家のみなさまにメッセージをお願いいたします。
柏木氏:
投資家のみなさまはご承知のこととは思いますが、アジア開発銀行はトリプルAの格付けを付与されています。財務的にはきわめて健全であり、最も安心して購入いただける債券の発行元のひとつだと思います。
従来から日本の投資家のみなさまには幅広くご支援いただいていますが、この“ウォーター・ボンド”をきっかけに、アジア開発銀行についてより認識を深めていただき、さらに支援したいという気持ちを強くしていただきたいですね。アジア・太平洋地域で「安全な水」を求めている人々の数は、おそらくみなさまの想像をはるかに超えています。水問題を真に解決していくために、これからますます資金需要が増えていくことは間違いないことであり、そこに少しでもお力添えいただければ幸いです。
花岡: お話をうかがって、この“ウォーター・ボンド”の意義は本当に大きいと実感いたしました。日本の投資家のみなさまにぜひ注目していただきたいと私も思います。本日はどうもありがとうございました。
花岡 幸子(聞き手)/大和証券 商品企画部長
埼玉県出身。東京大学経済学部卒業後、大和証券に入社。大和総研企業調査部、大和証券投資情報部において、証券アナリストとして企業の調査・分析業務を担当。
現在は商品企画部長として商品戦略の企画・立案に携わる。
「株式テーマがわかる企業と業界地図(日本実業出版社)」や「はじめての人のネット株入門塾(かんき出版)」など著書多数。
(2010年03月)
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