独立行政法人 国際協力機構(JICA)〜JICA債がつなぐ、途上国と日本〜
 2012年3月
小寺 清 氏/国際協力機構(JICA)理事
東京大学法学部卒。大蔵省(現財務省)入省。国際金融畑を歩み世銀中央アジア局長、日本人初となる世界銀行-IMF 合同開発委員会事務局長などを経て、2010年より現職。
独立行政法人 国際協力機構(以下、JICA)は、日本のODA(政府開発援助)の提言・実施機関として、2国間援助の「技術協力」「有償資金協力(円借款)」「無償資金協力」を一元的に担っている機関です。JICAの小寺清理事に、JICAが取り組む事業やJICA債についてお話を伺いました。

「すべての人々が恩恵を受ける、ダイナミックな開発」を目指すJICA

[JICAの概要とその役割]
まずは、JICAについてご説明いただけますでしょうか。
JICAよりパキスタンに派遣された小林専門家によるワクチン接種
JICAというと青年海外協力隊や国際緊急援助隊をまず思い浮かべる方が多いと思いますが、2008年10月の旧JICAと旧JBICの海外経済協力部門との統合により、今やJICAは開発援助を一手に引き受ける我が国唯一の援助機関となり、アジアのみならず、中東・アフリカ等世界中にネットワークを持ちながら、政策提言からコミュニティーレベルまで手の届く幅広い援助を行っています。特に、JICAが開発途上国向けに供与する円借款を通じた支援は、約11兆円の残高規模に上り、これは例えば、日本でいえば上位地方銀行並みの資産規模であり、アジア開発銀行をも上回るものとなっていることは、あまり知られていないのではないかと思います。
一方で、財政難とより内向きになる日本社会を背景として、この20年間で一般会計ODA予算は1997年をピークに半減し、ODA事業量のOECD諸国での順位は2位から5位に下がるなどODAを取り巻く状況は厳しさを増しているところです。しかし、低利で超長期の貸付である円借款に関しては、これまでの各受入国からの返済が順調であることに加え、7兆円という政府からの資本金がバックにあることから、一般会計予算が厳しい中においても、成熟した経済大国にふさわしい援助の実施が依然として可能だと考えております。特に円借款の資金力とこれまでの我が国の経験・知識を伝播させる技術協力を有機的に組み合わせ、開発事業の立案、調査段階から、実施、フォローアップまで現場のニーズに応じた支援を機動的に提供することで援助効果を高める点では、世界銀行、アジア開発銀行等からも理想的な政策手段を持っている二国間援助実施機関であるとして注目されています。
2008年、新JICA発足時のビジョンは「すべての人々が恩恵を受ける、ダイナミックな開発」です。特に昨年来の「アラブの春」にみられるように、グローバル化の影の部分=格差の拡大が、アフリカに多い低所得国が更に成長する、又はアジアの成長国が更に先進国になる際の大きな課題として立ちはだかっている現在、改めてこのビジョンの重要性が明らかになっています。開発援助を実施するにあたっては、チャリティーではなく、あくまでも当該国の人々の生活水準向上を大きな目標として経済成長を持続的に促進し、その果実が貧困層にもしっかり行き渡るように心掛けなければなりません。
また、国境をまたがる地球規模の課題である気候変動、自然災害、感染症の世界的大流行等も21世紀ならではの開発課題となっており、JICAはこうした分野での活動にも対象を広げてきております。
[円借款による事業事例]
日本のODAの量的中核を成している円借款ですが、円借款による事業には具体的にどういった事例があるのでしょうか。
タイ:インラック首相から直々に
日本の支援を要請されたJICA竹谷客員専門家
©Metropolitan Waterworks Authority,Thailand
日本の円借款では、「インフラストラクチャー」が中心でしたが、そこにも気候変動・防災の視点を加味したり、民間との協働を視野に入れたり、さらに教育、保健といったソフト分野への支援にも、スコープを拡げています。その一つの例として、2011年8月にJICAは、パキスタン政府との間で「ポリオ撲滅事業」の実施に合意しました。これは、JICAが、パキスタン政府の行うポリオ対策、つまりポリオ・ワクチン調達やその接種のためのキャンペーンを支援するものであり、世界銀行やユニセフ、WHOなど、多種多様な開発パートナーとの協働により実施するものです。ポリオは、現在、インド、パキスタン、アフガニスタン、ナイジェリアのみに残されています。これらの地域におけるポリオ根絶を目標の一つに掲げる、ビル&メリンダ・ゲイツ財団は、このJICA事業の成果目標が達成されれば、パキスタン政府からJICAに対する返済を肩代わりすることを約束しており、JICAはこういった民間との協力においても新たな手法を取り入れる努力を行っています。
また、昨年は、タイを中心としたメコン地域での大規模な洪水発生が記憶に新しく、東南アジア諸国と日本との経済的な繋がりの深さを再認識する出来事でした。JICAは迅速にニーズ・アセスメント調査団や国際緊急援助隊を派遣したのに加え、先方からの要請を受けて国家治水対策委員会に日本人アドバイザーを派遣するなど、民間セクター、農業をも視野に入れた復旧・復興支援に着手しております。円借款により支援したバンコク地下鉄は、2000年に運転を開始していますが、建設当初より駅入口の嵩上げ、排水用の非常ポンプの設置等の洪水対策を行い、今回は被害を受けていません。
JICAのビジョンである「すべての人々が恩恵を受ける」開発を達成するには、途上国における雇用創出が不可欠です。JICAは、2006年から2期に亘り、モンゴル国での「中小企業育成・環境保全ツーステップローン事業」として、モンゴルの商業銀行を通じて、中小企業への資金支援を行ってきました。第1期事業では、現時点で145件の企業がローンを活用しており、この実施を通じてリーマン危機を乗り切り、1,300人以上もの雇用が創出されました。

JICA債が、途上国支援と個人投資資金をつなぐ

[JICAの資金調達―債券発行]
JICAでは、円借款のための資金をどうやって調達しているのですか。
円借款の原資は、円借款が非常に低利で長期にわたる貸付金ですので、日本政府からの出資金と政府からの借入による財政投融資がその調達の中心になります。また、過去に貸し付けた資金、例えば中国や韓国への貸付は、現在順調に返済されており、これらの返済された資金は他の途上国への新たな貸付に回っています。
これらの資金に加えて、2008年の新JICA発足時より、JICAによる説明責任の向上と、国民の皆様との協働の一環として、機関投資家を中心に債券発行による資金調達も開始しました。
[JICA債について]
2011年12月には、初めての試みとして個人向けに「JICA債」を発行されました。これはどういった債券なのでしょうか。
有償資金協力で建設したトルコ第2ボスポラス橋
「JICA債」は、日本の政府機関として初めての試みとなる個人投資家向けの円建て債券です。2008年以降、これまでは定期的に機関投資家向けに超長期の財投機関債を発行してきましたが、今回、初めて個人投資家の方々を対象とした債券の発行を行いました。世界銀行、国際金融公社、アジア開発銀行などは既に外貨建ての個人向け債券を発行しておりますが、JICA債は国際的/社会的貢献に興味ある個人投資家のニーズに応えるものとして、日本の政府機関が円建てで発行した初めての債券となります。
「JICA債」にて調達された資金は、全額が円借款に代表される有償資金協力業務に充当されることから、本債券への投資は、個人投資家の方々が開発という国際的/社会的貢献へ参画するという意義があるものと言えると思います。
[JICA債の意義]
個人投資家の資金を円借款に代表される有償資金協力に充当し、途上国への援助のために活用するのですね。途上国と日本の投資家を結ぶ架け橋となる商品だといえます。個人向けに発行するということには、どんな意味があるのでしょうか。
原資の多くが国民の皆様の貴重な税金から成るJICAの事業は、日本と世界の協働の場であり、日本と世界をつなげる交流と協力の機会を提供する、日本の将来にとって重要な責任と役割を担っているのだということを強く感じています。また、JICAの職員は皆、国際的に意義のある仕事をしているという自覚と使命感をもって業務に臨んでいます。
この「JICA債」への投資を通じて、個人投資家の皆様にも、こういった協働の場に関与しているという思いを抱いていただければ、非常にうれしく思います。JICAの国際協力の原動力は、日本の皆様の理解と支持、そして参加です。

世界とつながる日本

[東日本大震災から1年を経て]
東日本大震災の際には、163もの国・地域からの支援の申し出がありました。支援は先進国にとどまらず、ODA実績のある途上国にまで及んでいます。まさに世界とつながる日本を実感した出来事でした。これは、ODAをはじめとする国際協力が、日本の世界的な評価と信頼を高めてきたことが寄与していると思われますが、どうお考えでしょうか。
東日本大地震の際、全世界の160を超える国・地域から日本に対し、支援が寄せられました。そのなかには、日本と経済的なつながりの強いアジアの国々に加えて、自らも戦乱からの復興や貧困問題で苦労しているアフガン・カンダハールのような南アジアの国や、食糧危機に苦しむエチオピアといったアフリカの国々も多く含まれていました。
1年前の震災を機に、再び国際社会による支援を受け、国際協力とは一方通行のものではなく、世界中の人々が繁栄していくために必要な、相互依存のシステムであることを改めて実感しています。
世界との絆に応えるためにも、今後も国際協力に積極的に取り組んでいくことが大切なのでしょうね。
では最後に、投資家の皆さまにメッセージをお願い致します。
JICAのこれまでの技術協力プロジェクトや研修員受入事業を通じて培ってきた途上国との大きな人的ネットワーク、そして円借款が成長の基礎作りに大いに貢献した東南アジアの発展を更に深め、また他の地域にも広げていくように努力するのが、日本の開発援助に携わるものの使命と考えています。投資家の皆さまにおかれましても、この「JICA債」を通じて、JICAについてより関心と認識を深めていただき、皆様の理解と支持、そして参加に向けた、一つのきっかけとして頂ければ幸いです。
貴重なお話、ありがとうございました。なお、JICAの活動等についてはHPからもご覧いただけます。
ホームページ:http://www.jica.go.jp/
投資家の皆さまへ:http://www.jica.go.jp/investor/
JICAセミナー「激動する世界経済〜今こそ求められる地球規模での社会貢献とは〜」
2011年11月17日(木)東京都千代田区の大和コンファレンスホールにて、セミナーが開催されました。これは、JICAが初めて個人投資家を対象とした「JICA債」を発行することに先立ち開催されたものです。地球規模の問題解決や開発援助において、民間の力・資金を活用することの必要性や、急速に変貌する途上国への支援のあり方について議論されました。平日夜の開催にもかかわらず約250名にご参加いただき、社会貢献やJICAへの関心の高さが窺えました。
「民間の知恵や資金による地球規模での社会貢献」をテーマとしたパネルディスカッションの様子。
投資を通じた社会貢献−インパクト・インベストメント−
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