国際金融公社 増岡俊哉氏に聞く!国際金融公社のインクルーシブ・ビジネスへの取組み
国際金融公社(IFC)は、途上国の民間セクターへの支援に特化した世界最大規模の国際開発機関です。
今回、日本ではまだなじみの薄い「インクルーシブ・ビジネス」について、IFCで第一線で活躍している方々にお話を伺いました。
増岡 俊哉(Toshiya Masuoka)氏
国際金融公社
インクルーシブ・ビジネス 開発インパクト 局長
2016年2月実施

国際金融公社(IFC)のインクルーシブ・ビジネスについて

まずはインクルーシブ・ビジネスについてお伺いします。「インクルーシブ」とは「包括的な」、「すべての」といった意味ですが、インクルーシブ・ビジネスは、どのようなビジネスモデルなのでしょうか。
世界中の途上国にいる低所得者層の人口を合算すると45億人にも上ります。経済の発展や技術の進歩を考えると少し信じられない人数ですが、生活必需品やサービスへの十分なアクセスのない、毎月3万円程度で生活している人々がこれほど存在するのが世界の実態です。こういった人々を英語ではBOP層(Base of the Economic Pyramid)と呼んでいます。BOP層の年間の購買力が約5兆米ドル、日本円にして600兆円程度になります。見過ごせない市場規模ですし、これからまだまだ成長・拡大していく分野です。
高所得者層だけでなく、BOP層にまで幅広く経済成長が行き渡るようなビジネス・モデルを展開している事業体をインクルーシブ・ビジネスと呼んでいます。日本的な表現にすると、近江商人の三方良し「売り手良し、買い手良し、世間良し」という考え方が近いかもしれません。もっと細かく言うと、インクルーシブ・ビジネス・モデルは「BOP層を消費者、生産者、流通業者、あるいは小売業者として位置づけ、バリューチェーンに組み込んだ、企業の本業の一部として成立し、かつ規模を拡大できる事業モデル」という定義になります。
例えば、携帯電話は、10年前には考えられませんでしたが、今では世界中で使われるようになりました。アフガニスタンやケニアのBOP層が携帯電話を使用できるようになり、電子決済サービスを利用して出稼ぎで得た収入を農村部の家族に送金できるようにまでなりました。これはBOP層が消費者として新しい便利なサービスに触れた例です。それまでは現金を自分で1日以上かけて村まで運んだり、田舎へ帰る知り合いにお金を託したりしていました。治安の問題もありますし、交通費や移動中は働けないことを考えるとはるかに有利なサービスです。
IFCは世界最大の民間向け国際開発機関として、これまでにも零細・中小企業向け金融やマイクロファイナンスといった分野に取組んできたと思います。インクルーシブ・ビジネスは、これまでの開発分野・融資対象と対象が異なるのでしょうか。また、なぜIFCはインクルーシブ・ビジネスに重点をおいているのでしょうか。
インクルーシブ・ビジネスはIFCが支援するプロジェクトの中でも特に、低所得者層の直接の利益に繋がるプロジェクトで世界銀行グループの2つの目標「極度の貧困の撲滅と繁栄の共有」の中核に有るものだと言えます。
マイクロファイナンスはBOP層向けの金融サービスへのアクセスの向上を目指しIFCもこの20年余りその育成に努めてきましたが、それでもまだBOP層の半数以上である25億人が金融サービスへの十分なアクセスがありませんし、小額保険(マイクロインシュアランス)や零細農家向け金融といった高度なリスク管理が必要な分野はまだまだこれからの分野です。
非金融セクターでは、電気やガスを供給するインフラ、教育・衛生、アグリビジネスといった分野でもインクルーシブ・ビジネスと呼べるものが増えてきました。例えば、中米、東南アジア、アフリカなどでコーヒー豆の買付けを行っているある商社は、零細農家に対する国際的基準に合った作物を作るための技術支援、肥料や農機具を使うための融資など、コーヒー豆農家の活動を全面的に支援し、長期的な信頼関係を構築しています。これによって農家は収量・収入が向上し、安定した生活ができるようになり、子供も学校へ行けるようになります。商社にとっても質の良いコーヒー豆の安定供給が確保でき、環境社会問題への意識の高くなった消費者のニーズに応じることができます。まさに、「売り手よし、買い手よし、世間良し」ですね。
インクルーシブ・ビジネスに対して2005年から注力しているということですが、現在の融資の内容や特徴について教えていただけますでしょうか。
大きく分けて2点あります。一つ目は産業部門、とくに零細農業が対象となる商品作物に関連した事業です。やはり途上国のBOP層は農家が多いです。それに加えて、長期的な視野にたって生活水準の向上につながる教育、衛生、住宅など基本的な生活に関わるビジネスです。
二つ目は金融部門です。マイクロファイナンスはもちろんですが、経済の実体面を裏から支える意味で、医療・生命保険、学資ローン、住宅金融、携帯電話を使った送金や決済などの金融サービスが挙げられます。どれもBOP層向けに貸出し条件や返済・支払い方法に工夫をした新しい商品でないとうまくいきません。失業者問題や医療費の高騰が問題になっている先進国でも通ずるビジネスモデルも出てきているのではないかと思います。
BOP層のためにコストを大幅に下げた白内障の治療手術や、低コストの住宅とそれを合わせた住宅ローンの提供、学生が卒業後に就職できることを中核においた授業プログラム等、インクルーシブ・ビジネスは対象者のニーズに合わせ工夫を凝らしています。
インクルーシブ・ビジネス・モデルは商品、サービス、経済的な機会へのアクセスを拡大するとのことですが、なぜそれらへのアクセスの拡大が課題なのでしょうか。
まずはBOP層にとって健康で文化的な最低限の生活をするためのインフラ・サービスが圧倒的に不足しているということです。途上国の政府は財政にも限界があり民間企業の貢献が必須となっています。「経済的な機会へのアクセス」は耳慣れない言葉ですが、簡単に言うと金銭収入を得られる機会ということです。低所得であればあるほど飲食に対する支出が多く、収入が少しでも増えれば可処分所得が増えて、生活の安定や教育その他の将来につながる支出に振分けられるようになります。彼らにとって収入源こそ、生活水準の持続的な向上に繋がるものです。また、自立した生活ができることは個人の尊厳にも繋がっています。

インクルーシブ・ビジネス・ボンドについて

2014年10月に世界で初めて『インクルーシブ・ビジネス・ボンド』発行しましたが、その引受と販売に大和証券グループを選択した経緯を教えてください。
大和証券グループはIFFIm(予防接種のための国際金融ファシリティ)発行のワクチン債を初めとして様々なテーマに即したインパクト・インベストメントの機会を個人投資家に提供し、この分野において先駆的な立場を果たされてきたと認識しております。IFCと大和証券グループはインパクト・インベストメントにおいて強固な関係を築いて参りました。IFC初の2009年11月のマイクロファイナンス・ボンドや2013年11月の女性応援ボンドを大和証券グループが引受・販売したことがその好例です。大和証券との協働によるインクルーシブ・ビジネス・ボンドが検討に上がった際は、日本の個人投資家にインクルーシブ・ビジネスの活動を広め、関わっていただくことのできる素晴らしい機会だと感じ、すぐに案件化を進めました。2014年10月、販売に先立って開催されたインクルーシブ・ビジネス・セミナーにも多くの方々にご参加いただき、我々の活動を日本の皆様に知っていただく非常に良い機会となりました。
債券の発行に先がけて、日本の個人投資家向けにインクルーシブ・ビジネス・セミナーを開催しましたが、どのような反響がありましたか。
セミナーでは多くの方々に来ていただき、強く関心を持っていただいていることに感銘を受けました。セミナー後にも個人投資家の方から、社会貢献型の投資、いわゆる「社会リターン」のある投資口が増えたとご声援をいただきました。機関投資家の方々からも私募債の発行についてお問い合わせが増えました。それと、日本で引き続き講演の依頼をいただき、シンポジウムなどでプレゼンをさせて頂いています。
大和証券での『インクルーシブ・ビジネス・ボンド』の販売後、更なるインクルーシブ・ビジネス・ボンドの発行・調達が行われたのでしょうか。
第一回目の個人投資家向けの起債のあと、2014年12月に機関投資家向けの私募債を発行しました。今回、2016年3月に発行予定の債券を含めて、IFCの調達ニーズと市場動向をみながら引き続き発行していくつもりです。
2016年3月に売出しが予定されている「45億人のビジネスを支援する インクルーシブ・ビジネス・ボンド」の発行による調達資金は、どのようなプロジェクトに投資される予定ですか。
今の時点では調達した資金の投資先は確定していませんが、フィンテックも含めた金融セクター、農業、保健医療、通信も含めたインフラ関係などの投資先が中心になるかと思います。IFCの年間のインクルーシブ・ビジネスへの投資額は10〜15億米ドルですので、その中の対象となる案件を選定します。前回同様インクルーシブ・ビジネス案件については、発行後にウェブサイトに掲載します。
最後に、日本の投資家へメッセージをお願いします。
来日中、インタビューにお答えいただいた
国際金融公社(IFC)の皆さん
(2016年2月 大和証券本店にて実施)
IFCは日本の投資家の皆様と長いお付き合いをさせて頂いています。内外の金融情勢が不透明な中、引き続きAAAの優良格付け債を提供させて頂くとともに、インクルーシブ・ビジネス・ボンドを通じて途上国の社会問題解決を支援していただく機会も持っていただければと思います。インクルーシブ・ビジネスの特徴である投資リターンと社会リターンが両立する事業を支援することで「売り手良し、買い手良し、世間良し」の仕組みを広げていきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
――お忙しいところ、ありがとうございました。
大和証券グループ本社
CSR社会的責任への取組み
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