グリーン世銀債特集
2009年12月25日実施 ©The World Bank
有馬 良行 氏/世界銀行 財務局 駐日代表
1989年一橋大学商学部卒、同年東京銀行(現:三菱東京UFJ銀行)入行。貿易金融、融資業務、M&A等の業務を手がけた後、同行ニューヨークにて、米国債のトレード、レポ、シカゴ先物業務を中心に各種債券業務を担当。合併後の東京三菱銀行では本邦企業の欧州市場での起債、サムライ債社債管理会社業務、米国私募債引受業務を手がける。
2000年に世界銀行入行。世界銀行 財務局 駐日代表。本邦資本市場において、投資家へのIR活動全般を管轄。個別起債案件や新型世銀債の発行を含めた、投資家ならびに世銀債を取り扱う金融機関への各種サービスの提供を行っている。

地球温暖化問題を考慮しない貸出は、いまやありえない

河口: 世界銀行といえば、開発途上国支援のための経済開発融資を担う国際機関というイメージをおそらく多くの人がお持ちかと思います。もしかしたら、地球温暖化問題解決とは相反することにつながるのではないかと誤解されている方も、なかにはいらっしゃるかもしれません。地球温暖化問題に対して、世界銀行はいまどのような取り組みを行っていらっしゃるのでしょうか?
有馬氏:
かつての世界銀行は、戦後の復興支援が目的であり、日本においても、1950年代から電力にはじまり重工業などの産業のインフラ開発に貸出を行い、社会の発展に貢献してきました。確かに当時は「環境」への配慮は現在ほどなされていませんでしたが、いまでは貸出の形態も大きく変わっています。まず念頭に置いているのは、貧困削減に寄与し、持続可能なプロジェクトであるかどうか。環境破壊につながる貸出は承認すらされませんし、地球温暖化問題関連の案件も数多くあります。たとえば、京都メカニズム(※1)に対応した「カーボンファイナンスユニット」という組織を立ち上げ、カーボンファンド(※2)もいくつか組成し、日本企業にもご出資いただいています。今回、日本で発行する「グリーン世銀債」もその一環。地球温暖化問題に対して貢献度の高いプロジェクトへ資金を提供するための債券であり、海外ではすでに販売されています。
(※1)「京都議定書」において定められた、温室効果ガス削減をより柔軟に行うための経済的メカニズム。「クリーン開発メカニズム」(CDM)、「共同実施」(JI)、国際排出量取引から成る。
(※2)温暖化ガス排出削減プロジェクトに資金を投資し、得られた削減量を「排出権」として出資企業に配分する基金

地球温暖化が、途上国の人々の命を奪っている

河口: 最近の世界銀行のレポートを拝見いたしますと、地球温暖化による異常気象によって途上国に貧困問題がもたらされていることが強調されています。
有馬氏:
たとえば、水位の上昇で災害が起こるなど、地球温暖化というのは開発途上国の人々にとっては「生命」に関わる重大な問題なのです。そもそも世界銀行の当初の目的は、戦争で荒廃した国々への長期的な投資で復興させることでしたが、それはすでに果たしました。いまは「貧困撲滅」が私たちの最大のテーマであり、それを達成するためには温暖化問題は避けて通れません。もはや環境に配慮せずに、世界銀行の業務は継続しえないのです。
河口: 「環境問題」と「貧困問題」は、実は開発途上国の現場では密接にリンクしているんですね。たとえば、温暖化による異常気象で干ばつとなり、作物が不作となることで食糧難に陥ってしまったり……。「環境問題」と「貧困問題」は、同じ次元で解決を図っていかなければならない問題ですね。まだまだ私たちの側では、たとえばCDM(※3)にせよ、単に「環境問題」という視点でしか捉えていないように思います。
(※3)クリーン開発メカニズム。先進国と開発途上国が共同で、開発途上国において温室効果ガス削減プロジェクトを行い、これによって生じた削減分の一部を先進国がクレジットとして得て、自国の削減に充当できる仕組み。
有馬氏: まさにその通りです。CDMの仕組みはそもそも地球温暖化問題について先進国と途上国が共に利益を得られる方法で取り組む手法なのですが、「環境問題」の側面が一人歩きしている印象があります。温暖化問題を考えるときに、先進国では「次の世代のために、この美しい地球を変わらず残していかなければならない」と考える人がおそらく多いのではないでしょうか。もちろんそれも重要ですが、いまこの瞬間にも、温暖化が引き起こした事態によって、尊い命が失われている国々もあるのです。地球温暖化問題への対応は、まずそこに重点を置くべきだと思います。日本がいまやるべきことは開発途上国支援だということを、より多くの人々に知って頂きたいですし、今回のグリーン世銀債への投資を通じて、ぜひその意義を感じてほしいと思っています。
河口: 先に開かれたCOP15(※4)では先進国側と開発途上国側の合意形成が難しい状況でしたが、突き詰めていけば、その解決の糸口は、先進国の資金をいかに開発途上国へ流して「開発」と「環境」を両立させるかという点に尽きるように思います。
(※4)2009年12月にデンマークで開催された、京都議定書に定めのない2013年以降の地球温暖化対策の枠組みを決定するための国際会議。
有馬氏: 地球温暖化問題に関する融資や投資は、今後1兆円規模で増えていかなければならないといわれています。それぐらいの規模で拡大していかなければ、問題解決は成しえない。各国がそれぞれ実行していくことになりますが、現実的にはそれだけではとても足りません。そこに、世界銀行だからこそできることがあると思っています。すなわち、我々のように国際機関でありながら貸出に使う資金は民間資本市場から調達するユニークな存在が、民間の資金も活用して開発途上国支援に向けていく。これからの我々の大きな使命です。
河口: それをかなえるためのアプローチのひとつが、このグリーン世銀債というわけですね。

新たな投資家層から注目されるグリーン世銀債

河口: では、グリーン世銀債は具体的にどのような成果を上げているのでしょうか。
有馬氏: そもそも世銀は地球温暖化に対する取り組みに寄与する案件を拡大してきていたのは前述の通りですが、そういった案件のファイナンスは随時グリーン世銀債で支えていくように進めています。こうした貸出案件の事例を挙げますと、たとえば老朽化した発電設備を更新してエネルギー効率を上げて温暖化ガスを減らす、あるいは、太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギーで代替していくなど、各地でさまざまなプロジェクトを展開しています。森林保全などへの貸出もグリーン世銀債がカバーしています。また、その前提として、温暖化ガス削減に取り組んでいない開発途上国の政府に対して制度構築のノウハウを提供するなど、地球温暖化問題に対して貸出だけではなく根本から取り組んでいます。
河口:
森林や水資源というのは、CO2排出権などとは違って、森や水そのものが価値になるわけですから、グリーン世銀債をさらに発展させて、地球温暖化問題に対してより有効な投資スキームができるのではないかと、大いに可能性を感じます。このグリーン世銀債に対する投資家からの反応はいかがですか?
有馬氏: 年金基金などの投資家の方々が「長期に渡って貢献できる」「自分たちの暮らしに還元される」という願いを込めて購入されているようです。そもそも、この債券を最初に発行したのは北欧。実は、北欧というのは戦後の復興にあまり資金を要しなかったこともあり、世界銀行の知名度も高くありませんでした。しかし、ご存知の通り、北欧の投資家の方々はこうした環境問題にきわめて敏感であり、こうした投資家層との対話を経てグリーン世銀債の発行にいたったのです(※5)
(※5)グリーン世銀債のプロトタイプはSkandinaviska Enskilda Banken (SEB)と共同で開発。
河口: このグリーン世銀債が、いままで世界銀行に縁のなかった新たな投資家層を開拓したというわけですね。
有馬氏: そうです。日本でもぜひ、このグリーン世銀債をこれまで世界銀行にあまり関心をお持ちでない投資家の方々にも購入していただきたいと思っています。

投資を通じた社会貢献が、これからいっそう重要になっていく

河口: 私はSRI(※6)に長く関わっていますが、日本の個人投資家は「この企業を応援したい」「このプロジェクトを応援したい」という明確な思いをお持ちの方がたくさんいらっしゃいます。しかし、たとえば環境問題に対して意識の高い投資家の方がエコファンドを購入しても、結局はセカンダリーのマーケットで企業のエクイティ(株式)に投資することになる。自分が投じた資金が果たしてどのように使われているのか、本当に環境問題に寄与しているのかどうか、実感できないという声も聞きます。その点、このグリーン世銀債という債券であれば、投じたお金が直接、温暖化防止のためのプロジェクトに提供される。投資家の方々へ向けても説得力があると思います。同様に、以前大和証券で販売した、ワクチン債(※7)も、投資したお金がどのように社会に役立つかということが明確だった点が、投資家の共感を呼んだ、ときいています。
(※6)社会的責任投資。社会・倫理・環境などの点から社会的責任を果たしているかどうかを銘柄選別基準にして、投資すること。
(※7)世界の約70の開発途上国における医療および予防接種サービスのために活用される債券。予防接種のための国際金融ファシリティ(IFFIm)が発行し、大和証券グループが日本で初めて販売。世界銀行は、IFFImの財務を担当している。
有馬氏: 私も、日本の個人投資家の意識が高度化しているように感じています。あくまでもリターンを追求するプロフェッショナルディーラーのような投資家がいらっしゃる一方で、「金融のリターン」と「心のリターン」の両方を満たされることを望む投資家の方が増えていることも確実です。これはワクチン債の発行時にも強く感じました。日本の投資家には独特の美学があると感じますし、投資意思決定のアプローチも成熟の域に達している感があります。運用の数字だけを求めるだけでは満足しなくなってきたのではないでしょうか。
河口: 最近では、投資家の方々にアンケートを取ると、一般の方でも9割の人が「CSRを考慮するのは当たり前」という答えが返ってきます。自立した投資家の方々は確かに増えていますね。よりリスクが小さくて、ダイレクトに使途が見える、こうした債券はこれからさらに注目されていくのではないでしょうか。
有馬氏:
世界銀行としても、日本の投資家の皆様からのご支援には大いに期待しています。開発途上国の地球温暖化問題に対してはまだまだ資金が必要なのです。先にもお話ししましたが、グリーン世銀債をご購入頂くことで開発途上国に暮らす多くの人が救われていくのです。さらに申し上げれば、何もグリーン世銀債だけが社会貢献ではなく、世界銀行の債券はすべて同じ考え方で発行されています。グリーン世銀債は、それを皆様にわかりやすく伝えるためのひとつのメッセージです。これを機に世界銀行のことをさらに理解いただき、継続的に世界銀行へのご支援をお願いできれば幸いです。
河口: 日本に眠っているお金が本当に活きてくるわけですね。「金融」と「環境」は距離があるように思われますが、たとえばエネルギーを無駄遣いしないなど日常生活の中で環境のために実際に行動に移すこと以外にも、「お金に働いてもらう」という有効な手段があることをぜひ知ってほしいと私も思っています。寄付ではなく、自らも資産運用しながら、加えて社会にも貢献できる。グリーン世銀債はまさにそれが実現できる方法ですね。本日は貴重なお話、どうもありがとうございました。
河口 真理子(聞き手)/大和総研 経営戦略研究部長(当時)
1986年一橋大学大学院修士課程修了(環境経済)、同年大和証券入社。94年に大和総研に転籍、企業調査などを経て現在、経営戦略研究部長/主席研究員。担当分野は環境経営・CSR・社会的責任投資。青山学院大学非常勤講師、NPO法人・社会的責任投資フォーラム代表理事・事務局長。サステナビリティ日本フォーラム評議委員、エコアクション21審査人委員会評定委員、環境省・環境ビジネスウィメンの会メンバー、東京都環境審議会委員、環境コミュニケーション大賞審査委員など。
(2009年12月25日)
投資を通じた社会貢献−インパクト・インベストメント−
大和証券グループ本社
CSR社会的責任への取組み

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